非居住者の暗号資産取引|申告義務と国外転出時課税

結論

非居住者が暗号資産(現物)を売却しても、原則として日本の所得税は課されない。暗号資産の譲渡は国内源泉所得の限定列挙に該当しないためである。

  • 理由① 所得税法第161条は国内源泉所得となる資産の譲渡を限定列挙しており、暗号資産はこのリストに含まれていない。日本の取引所を利用していても、非居住者であれば日本での課税権が及ばない。
  • 理由② 国外転出時課税(出国税)の対象資産は「有価証券等」に限定されており、現行法では暗号資産(現物)は対象外。1億円以上の暗号資産を保有したまま出国しても、出国時の含み益に対する課税は発生しない。
  • 条件 日本国内に恒久的施設(PE)がある場合や、NFTの権利内容が著作権等の国内源泉所得に該当する場合は個別に課税関係が生じ得る。また、移住先の国で暗号資産取引に課税される可能性があり、「非居住者=無税」ではない点に注意が必要。

所得税法第161条 / 同施行令第281条 / 所得税法第60条の2

この記事でわかること

  • 非居住者が暗号資産を売却した場合の日本での課税関係
  • 外国法人が日本の取引所で暗号資産を譲渡した場合の申告義務
  • 非居住者がNFTを譲渡した場合の国内源泉所得該当性
  • 国外転出時課税(出国税)が暗号資産に適用されるか
  • 恒久的施設(PE)がある場合の課税関係
目次

非居住者の暗号資産売却と国内源泉所得

【結論】非居住者が日本の暗号資産交換業者に暗号資産を売却しても、日本の所得税は課されない(※国内に支店等の恒久的施設を有し、そこに帰属する場合を除く)。国内源泉所得の対象となる資産の譲渡は不動産・株式等の一定のものに限定列挙されており、暗号資産はこれに含まれない(所得税法第161条、同施行令第281条第1項第1号〜第8号、国税庁FAQ 1-8)。

非居住者に対する所得税は、法令で限定列挙された「国内源泉所得」に対してのみ課される(所得税法第5条第2項第1号、第7条第1項第3号、第161条第1項等)。

暗号資産の譲渡による所得がこの国内源泉所得に該当するかどうかがポイントとなる。所得税法施行令第281条第1項第1号〜第8号が定める「課税対象となる資産の譲渡」は、国内不動産、国内の事業所に帰属する資産、内国法人の株式(一定割合以上)などに限定されている。日本国内に恒久的施設(事業所等)を有していない非居住者であれば、暗号資産の譲渡はいずれにも該当しない。

外国法人の場合

外国法人についても同様である。国内に恒久的施設を有しない場合、日本の暗号資産交換業者で保有する暗号資産を譲渡した場合の所得について、日本での法人税の申告は不要である(法人税法第138条、同施行令第178条)。

源泉徴収の要否

非居住者や外国法人が暗号資産を譲渡したことによる所得は、源泉徴収の対象にもなっていない(所得税法第212条)。

非居住者のNFT取引と国内源泉所得

【結論】非居住者がデジタルアートのNFTを日本のマーケットプレイスで譲渡した場合、原則として国内源泉所得に該当せず日本の所得税は課されない(NFT FAQ 問3)。ただし、NFTに紐付く権利や資産の内容によっては個別検討が必要となる。

NFT取引の国内源泉所得該当性は、暗号資産の譲渡よりも複雑な判断を要する。以下の観点から検討が必要となる。

  • 「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」に該当するか
  • 「国内にある資産の譲渡により生ずる所得」に該当するか
  • 「国内においてした行為に伴い取得するもの」に該当するか

(所得税法第161条第1項第2号・第3号・第17号、同施行令第281条第1項第8号、第289条第2号・第5号・第6号)

NFT FAQ 問3では、非居住者が「デジタルアートの閲覧に関する権利」の設定に係る取引(一次流通)を行った場合について、原則としていずれの観点からも国内源泉所得に該当しないとの見解が示されている。ただし、この見解は「有体物ではないデジタルアートの閲覧に関する権利」の設定を前提としている。不動産や実物資産と紐付くNFT、特定の権利を表章するNFTなど、異なる性質のNFTには一律にあてはまらない。

NFTの課税判断で考慮すべき要素

要素判断への影響
NFTに紐付く権利の内容不動産・有形資産に紐付く場合は国内源泉所得に該当する可能性あり
恒久的施設の有無国内に事務所等がある場合、帰属所得として課税対象となる
租税条約の適用関係相手国との租税条約により課税関係が変わる場合がある

これらの要素が複雑に絡むため、非居住者のNFT取引の課税関係は税理士への相談が必須となる。

国外転出時課税(出国税)と暗号資産

【結論】現行法上、暗号資産は国外転出時課税(出国税)の対象資産ではない。国外転出時課税の対象は「有価証券等」「未決済デリバティブ取引」「未決済信用取引等」に限定されており、暗号資産はこれに該当しない(所得税法第60条の2、第60条の3)。

国外転出時課税制度は、1億円以上の「対象資産」を有する居住者が国外に転出する場合に、対象資産の含み益に対して所得税を課す制度である。

対象資産暗号資産の該当性
有価証券等暗号資産は有価証券に該当しない → 対象外
未決済デリバティブ取引暗号資産の現物保有は該当しない → 対象外
未決済信用取引暗号資産の現物保有は該当しない → 対象外

暗号資産の証拠金取引(暗号資産FX等)のうちデリバティブ取引に該当するものは理論上対象となり得るが、現物の暗号資産保有は国外転出時課税の対象外である。

海外移住時の実務上の注意点

国外転出時課税が適用されないとしても、海外移住に伴い以下の点に留意が必要である。

  • 取引履歴の保管:帰国する可能性も考慮して、海外にいる年であっても取引履歴はDLすること。帰国後に日本で申告する際の損益計算で海外にいた時に生じたはずの利益であることが証明できなくなる恐れがある。
  • 出国前の含み益の実現に注意:出国前に暗号資産を売却した場合は、居住者として日本の所得税が課される。出国日の判定と売却タイミングの管理が重要となる。
  • 居住者・非居住者の判定:「国内に住所を有するか」「現在まで引き続いて1年以上居所を有するか」で判定される(所得税法第2条第1項第3号・第5号)。住民票の異動だけでは判定されず、生活の本拠がどこにあるかの実質判定となる。
  • 財産債務調書への記載:出国年の12月31日時点で居住者に該当し、一定の要件を満たす場合、財産債務調書の提出義務が生じ得ます。(※国税庁の見解上、海外の取引所に保有する暗号資産であっても「国外財産調書」の対象にはならず、「財産債務調書」の記載対象となる点に注意が必要です。)

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「海外法人・暗号資産の国際税務を相談する」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 海外移住後に暗号資産を売却すれば日本で課税されませんか?

非居住者に該当すれば、原則として日本の所得税は課されない。暗号資産の譲渡は国内源泉所得に該当しないためである(所得税法第161条、同施行令第281条、国税庁FAQ 1-8)。ただし、居住者・非居住者の判定は住民票ではなく「生活の本拠」の実質で行われるため、形式的な出国だけでは非居住者と認められない場合がある(日本国内に恒久的施設(PE)を有し、その所得がPEに帰属する場合など)。

Q2. 暗号資産に国外転出時課税(出国税)はかかりますか?

かからない。国外転出時課税の対象は有価証券等・未決済デリバティブ取引・未決済信用取引に限定されており、暗号資産の現物保有は対象外である(所得税法第60条の2、第60条の3)。

Q3. 非居住者がNFTを日本のマーケットプレイスで売っても課税されませんか?

デジタルアートのNFTであれば原則として課税されない。NFT FAQ 問3により、非居住者が「デジタルアートの閲覧に関する権利」を設定する取引は国内源泉所得に該当しないとされている。ただし、不動産等と紐付くNFTなど権利内容が異なる場合は個別検討が必要となる。

Q4. 海外取引所のみで取引している非居住者に日本での申告義務はありますか?

原則としてない。非居住者が国外の取引所で暗号資産を売却した場合、日本の国内源泉所得に該当する余地がさらに小さくなるため、日本での申告は不要である(所得税法第161条)。ただし、この場合であっても日本国内に恒久的施設(PE)を有し、その取引がPEに帰属すると判定される場合には、例外的に日本での申告義務が生じる。

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関係法令

  • 所得税法第2条第1項第3号・第5号(居住者・非居住者の定義)
  • 所得税法第5条第2項(非居住者の課税範囲)
  • 所得税法第7条第1項第3号
  • 所得税法第60条の2・第60条の3(国外転出時課税)
  • 所得税法第161条第1項(国内源泉所得)
  • 所得税法第212条(源泉徴収)
  • 所得税法施行令第281条第1項第1号〜第8号
  • 法人税法第138条
  • 法人税法施行令第178条
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