令和5年1月13日に国税庁のホームページに「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」がアップされました。
(今回のタイトル画像のNFTは、ぴぴぴさん(@pipipipikyomu)に御協力いただきました。ありがとうございます!)
前回に続き、NFTのFAQの概要を簡単に確認します(全問ではなく必要そうな問だけです)。
問2 NFTを組成して知人に贈与した場合(一次流通)
所得税は、基本的に、収入(外部からの経済的価値の流入)がないと課税されません(所得税法36条等)。
だから、贈与した側の個人は基本的に課税されません。
(贈与等を受けた側の税金については、本記事の問9をご覧ください。)
ただし、例外規定がいくつかあって、例えば、次の場合にはたとえ対価の受け取りがなくても、贈与した側(資産を手放した側)に所得税が課されたり、その他特別な課税関係となったりすることがあるため、気を付けてください(他にも検討すべき規定はありますがとりあえず)。
たな卸資産や暗号資産などを贈与する場合(所得税法40、同法施行令87)
譲渡所得の場合(所得税法59・・・ただし、基本的には、相手方が法人の場合に適用される規定)
上記2との関係では、FAQの前提がデジタルアートの制作者であることに注意が必要です。
制作者が自己制作のNFTを譲渡しても、それは資産の譲渡ではなく権利の設定であるという理解があることは、筆者のブログや書籍でも注意喚起してきました。ただし、前回の記事でも説明したとおり、権利の設定という構成が資産の譲渡に該当しないといえるかは、税法の観点からさらに検討する余地は残されています。
この理解によれば、一次流通の場合は、上記2の規定の適用はないことになります。それでも「基本的には」、「原則として」ですけど。
(上記FAQによれば、国税庁は、上記のようなデジタルアートの制作者が制作したNFTを贈与する場合については、同人のたな卸資産・準たな卸資産の贈与に該当するとは見ていないことが明らかになったといえるでしょう。プロの画家による実物絵画の贈与の場合と絡めて議論する価値がありそうです)
逆にいえば、NFTに関する権利の「設定」ではなく、NFTの利用権の「譲渡」として構成されることが通常である二次流通の場合は、上記2の適用の有無を検討しなければなりません。
なお、FAQにおける贈与という表現について、「デジタルアートの閲覧に関する権利」の設定という構成を採用した場合に、民法上の贈与契約(民法549)に該当する場合がどれほどあるのかわかりませんが、差し当たり、NFTというトークンの贈与又は無償によるNFTの提供(無償による利用許諾)といような意味で解しておけばよいのではないかと思います。
また、FAQに記載はありませんが、NFTを問1のように譲渡した場合に算入が認められる必要経費の額は、この問2の場合には控除が認められないと解されるため要注意です。
問4 購入したNFTを第三者に転売した場合(二次流通)
FAQの解説部分では、二次流通の場合の所得区分についても触れており、「ご質問の取引は、『デジタルアートの閲覧に関する権利』の譲渡に該当し、当該取引から生じた所得は、譲渡所得に区分される」としています。
前回の記事で述べたとおり、問の前提事実にある「デジタルアートの閲覧に関する権利」という表現は通常のNFT取引で想定されている権利ではありませんので違和感がありますが(もし閲覧が誰でもできるものであれば、それに関する権利や対価の支払というのは観念しがたい)、とりあえずスルーしておきましょう(以前、オーストラリア国税庁がそのような事例をHPに掲載していたけど)。
スルーするといっても、FAQの前提となっている事実関係が一般のNFT取引に当てはまらないものであるとすれば、納税者において、上記FAQの回答が自分にそのまま当てはまると考えることはリスクが高まってしまうのではないか・・・・。
二次流通の場合のNFTの譲渡による所得について、(プラットフォーム等の仕組みによって構成が変わる可能性はありますが、権利や契約上の地位の譲渡などと構成されて)譲渡所得になりうるという見解を国税庁が示したことは、大方の予想のとおりであったと思います。
ただし、PFPといわれるTwitterのプロフィール画像などで使用されるNFTの取引の場合は、当事者の間でどのような権利義務関係になるのかという点につき、あらかじめ合意されていない場合もあり、このような場合にNFT保有者の地位の譲渡による所得をもって、資産の譲渡による所得(所得税法33条の譲渡所得)といえるのか、という疑問がありました。
このような疑問を前提とすると、「デジタルアートの閲覧に関する権利」という一般のNFT取引に当てはまらないような事実関係を前提としてFAQを作成されてしまうと、ちょっと困りますね、やっぱり・・・。
このほか、注意したいのは、解説では、「NFTの譲渡が、棚卸資産若しくは準棚卸資産の譲渡又は営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡に該当する場合には、事業所得又は雑所得に区分されます。」とされている点です。
➀譲渡所得、②事業所得、③雑所得(さらにいえば、③ー1業務に係る雑所得、③ー2その他雑所得)が候補に挙がっているわけです。
いずれの所得に該当するかの判断は、次の記事で述べたとおり、様々な考慮要素に基づく総合判断なので、納税者としてはブラックボックスでリスクがあるといわざるをえません。やはり、専門家に相談した方がよいでしょう。
なお、FAQの解説にあるとおり、譲渡所得は次の算式で計算します。
解説では、NFTの転売収入をマーケットプレイス内の通貨として流通するトークンで受け取った場合には、そのトークンの時価が転売収入となるが、そのトークンが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できないなど
の理由により、時価の算定が困難な場合には、転売したNFTの市場価額(市場価額がない場合には、転売したNFTの取得費等)をそのトークンの時価と取り扱って差し支えないとしています。
上記の算式中、特別控除額の部分は最大で50万円ですから、大きいですね。この範囲内であれば、NFTの譲渡による儲けに税金がかからないわけですから。
5年超保有してから譲渡したNFTは、これに加えて、長期譲渡所得として2分の1課税の恩恵を受けますから、NFTをガチホする人が増えて、フロアプライスは下げ止まりするかもしれませんし、5年を超えたとたんに高額で売る人が続出してフロアプライスは上がっていくかもしれません。
FAQの解説では、譲渡所得の金額が赤字となった場合(損失が生じた場合)には、他の所得との損益通算が可能ですが、そのNFTが主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有していたものである場合には、他の所得との損益通算はできない(総合譲渡所得内の通算は可能)ことにも触れています。
譲渡所得の課税関係を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
問9 NFTを贈与又は相続により取得した場合
NFTが、経済的価値のあるものであって、相続や贈与等により、他の者に移転できるものであるとすれば、個人が、NFTを無償で他の個人から移転を受けたときは、原則として、贈与税又は相続税の課税関係が生じます。
贈与税又は相続税を計算する際にNFTの時価を算定する必要がありますが、FAQの解説によれば、その評価方法については、財産評価基本通達という国税庁が定める時価の算定ルールに明記されていないため、もともと同通達に定められている評価方法に準じて評価してくださいとしています。
例えば、書画骨とう品の評価に関する財産評価基本通達135に準じ、その内容や性質、取引実態等を勘案し、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価することを挙げています。
しかし、もとよりNFTの時価算定が難しい(単純にフロアプライスやオファー価格で片づけることは躊躇される)ことは関係者の間では常識ですし、国税庁が認める精通者というのは誰なんだという疑問も湧きます。
素性のわからない匿名の方の意見やポジショントークをしそうな方の意見は受け入れ難いでしょう。
なお、FAQの解説によれば、課税時期における市場取引価格が存在するNFTについては、当該市場取引価格により、評価して差し支えないということです。
もっとも、NFTクリエイターの場合は色々考えなくてはいけないことがあるため、NFTの時価評価については、専門家に相談することをお勧めします。
★実際の税金の申告や個別の税務相談等は、税理士に依頼しましょう。★
※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。