令和5年1月13日に国税庁のホームページに「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」がアップされました。
(今回のタイトル画像のNFTは、Luv(@luvluv_eth)さんに御協力いただきました。ありがとうございます!)
前回に続き、NFTのFAQの概要を簡単に確認します(全問ではなく必要そうな問だけです)。
問5 第三者の不正アクセスにより購入したNFTが消失した場合
損失は、費用と異なり、収入を稼ぐためのものでないため、所得計算上、「必要経費」として収入から控除することや、配偶者控除や扶養控除のような「所得控除」として税金の計算において所得から控除することには、一定のハードルがあります。
解説では、「必要経費」にできる損失について、所得税法上、事業用資産等の損失であれば、事業所得又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるとされています(雑所得の基因となる資産について触れられていない点が気になりますが)。この場合、必要経費算入額は、その「NFTの帳簿価額」となります。
「所得控除」について、所得税法上、災害又は盗難若しくは横領によって資産(生活に通常必要でない資産及び棚卸資産等を除く)に損失が生じた場合の損失については、雑損控除の対象とされていると解説されています。
第三者の不正アクセスが盗難等に該当する場合のNFTの消失に係る損失は、雑損控除の対象になりうるということです。この場合の損失の額は、上記の必要経費の場合と異なり、その「NFTが消失した時点の時価」です。
時価が分からない場合には、そのNFTの購入金額として差し支えないそうです。
ただし、そのNFTが「生活に通常必要でない資産」(注1)又は「事業用資産等」(注2)に該当する場合には、雑損控除の適用はないと解説されています。
(注1)「生活に通常必要でない資産」とは、次の資産をいいます。
① 競走馬その他射こう的行為の手段となる動産
② 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産
③ 貴金属、書画、美術工芸品などで30 万円を超える動産
(注2)「事業用資産等」とは、棚卸資産又は業務の用に供される資産(繰延資産のうち必要経費に算入されていない部分を含みます。)及び山林をいいます。
「生活に通常必要でない資産」に該当するかは、生活に通常必要でないという語感から判断してはいけません。上記➀~③のいずれかに該当するものが「生活に通常必要でない資産」なのです(所得税法62条1項、72条1項、同法施行令178条1項)。
デジタルアートのNFTとの関係では、NFTが上記(注1)の「②主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に該当するかを検討しなければなりません。
一般の個人の方は、これに該当するケースが少なくないと国税庁は考えているのかもしれません。
➀と③は「動産」ですから、「動産」ではないデジタルアートはこれに該当しません。デジタルアート以外の動産と結び付いているNFTは➀又は③に該当する可能性があるのか、NFT=デジタルトークンであるから一律に➀又は③に該当しないとなるのか、国税庁の見解はわかりません。
なお、前回の記事のコメントでいただいように、NFTの盗難は雑損控除でいう盗難に当たるのかという論点があります。
雑損控除でいう盗難は、刑法の窃盗と同一の概念と理解するのが学説や裁判例の傾向です。そこで、刑法でいう窃盗の対象は有体物に限るという理解を前提に雑損控除でいう盗難も有体物に限るという見解がありえます。
ただ、国税庁や審判所はこの辺りの雑損控除の適用に少し柔軟な態度を示したこともありますし、少なくとも、有体物ではないデジタルアートに紐づいたNFTに関する上記FAQにおいては、雑損控除でいう盗難の対象をガチガチに有体物に限定して考えてはいないのでしょう。
問8 ブロックチェーンゲームの報酬としてゲーム内通貨を取得した場合
解説では、ブロックチェーンゲームの報酬は雑所得に区分されるとしています。事業所得該当性や、雑所得のうち業務に係る雑所得に該当するのか、必要経費の認められる範囲が狭いその他雑所得に該当するのか、という点に関する言及はありません。
これらは、(法的にも、行政的にも)色々難しい問題をはらんでいる論点なので、意図的に言及を避けたという見方が有力でしょう。
ただし、次の(注2)の必要経費に関する説明を見る限り、国税庁はその他雑所得と解している可能性が高いです。「必要経費は、ブロックチェーンゲームの報酬を得るために使用したゲーム内通貨(トークン)の取得価額の総額」とし、通信費等への言及もないからです。
所得税基本通達35ー1・35-2と、暗号資産のFAQの必要経費部分の記載を整合的に説明することが難しいため、国税庁は、その他雑所得該当性と認められない必要経費の範囲について、明確に記載することをひとまず回避したという見方が妥当ではないでしょうか。
上記のうち「暗号資産に直接交換できないなどの理由により、ゲーム内通貨(トークン)の時価の算定が困難な場合には、時価を0円として差し支えありません。」という部分について、「暗号資産に直接交換できない」=直ちに「時価を0円として差し支えない」ではないことに注意が必要です。
暗号資産に間接的に交換できるのであれば、通常は、時価の算定が困難であるとはいえないと指摘されるかもしれません。
「暗号資産に直接交換できない」こと以外の他の理由も含めて、「ゲーム内通貨(トークン)の時価の算定が困難な場合」に「時価を0円として差し支えない」としているのです。
獲得時点は認識できたけど、後になって獲得時点や年末時点の時価に関する記録がない場合にどうなるのかという問題がでてきそうです。
ところで、Second Lifeが流行したころに、米国でMMORPGの課税関係に関する議論が盛り上がり、いくつかの論文が発表されて、意見の応酬がありました。
ただ、解釈論ベースでいくと法定通貨と交換できるようなゲーム内通貨は経済的価値が認められるため、たとえゲーム内で獲得したとしてもそれは所得として課税の対象になるとされるのはやむを得ない面がありました。
このこととは別に、そのような仮想空間内取引を推奨したり、税務行政や申告便宜の観点から課税時期を遅らせるかどうかという政策論、立法論の議論もありました。
現在のブロックチェーンゲームでは、活発に市場取引されている暗号通貨と交換できるゲーム内トークン(暗号通貨やNFT)を取得できるので、これらを取得すれば、所得課税の対象になることは仕方がない面があります。
ただし、実際には、納税者が、適正な証拠資料・データに基づいて、適正な時期に、適正な金額で税額計算をできるか、エビデンスとしての記録を得ることができるか、残せるか、あるいは、営利目的で事業者としてプレイしている者について消費税はどうなるか、という疑問がありました。
いつのタイミングで課税されるのかという点について悩んでいたプレイヤーも多いと思います。
このFAQはこれらの疑問に正面から回答するものではありませんが、(法的根拠をどのように説明すべきかは措くとしても)少なくとも簡便法を認めたことは大きいと思います。
長くなってきたので後は源泉所得税に関して簡単に述べます。
NFTの源泉所得税も消費税も、私たちの書籍「事例でわかる!NFT・暗号資産の税務」で述べてきたことなので、詳しくは書籍をご覧ください。
源泉所得税にしても、消費税にしても、住所等に基づく居住者判定など取引の相手方の租税属性に関する情報を得る、確認することの難しさという問題が残っています。
詳しくは述べませんが、消費税についても、国税庁がNFT取引について、電気通信利用役務の提供に該当すると考えることは大方の予想のとおりであったと思われるものの、そのことをFAQで明らかにしたことは、実務上、大いに意味があると思います。
問10 NFT取引に係る源泉所得税の取扱い
解説には、次のように記載されています。
通常、会社勤めの方は、居住者に対する著作権の使用料を払っても源泉徴収義務者になりませんので(ただし、非居住者又は外国法人に対して支払う場合は別です)、上記回答は当然のことを述べただけです(所得税法6、184、204条2項2号、所得税基本通達204-5)。
むしろ、NFTの取引においても代価の支払者側に源泉徴収義務が発生する可能性があるという国税庁の見解が明らかになったことにこそ意味があるといえるでしょう。
その他、前々回の冒頭で、FAQに驚きの取扱いが掲載されていることを述べていますので、ご確認ください。
(そもそもの法的根拠はどうあれ、1円単位で計算をする源泉所得税について、その少額不追及の取扱いは、所得税基本通達204-8や204-10のように通達に明記されているものにのみ適用があり、その他の支払いについては適用がないと認識しておりました・・・。そうすると、著作権の使用料に係る源泉徴収のあらましの記述や通達も、少額であるときは徴収しなくても差し支えないと追加記載する必要が出てくるのではないでしょうか?
また、「著作物の利用の許諾を受けることの対価が明記されていないためその対価部分を区分することが困難」という部分は、源泉徴収義務が発生しないようにあえて区分できないようにするというインセンティブを納税者に与えることになりはしないか、心配です。所得税基本通達204-28の2のように合理的な区分の議論をすべきなのか・・・。)
細かい説明は省きますが、スマートコントラクトやプラットフォームを利用するNFT取引の性質上、購入者が購入代金から日本国の源泉所得税を控除して支払うことは難しいため、購入者の負担で源泉所得税を税務署に納付し、相手方には手取額を支払ったとものとするいわゆるグロスアップ計算での対応が迫られるかもしれませんから、非居住者又は外国法人に対する支払いについては色々と厳しいものがあります。
居住者・非居住者を問わず、どういう場合が「国内において」著作権の使用料を支払ったといえるのでしょうか(ウォレットの管理者の所在地?支払者や受領者の所在地?海外マーケットプレイスを経た場合は?非居住者については所得税法212条2項参照)。
色々考えてみると、上記のように一定の場合に源泉所得税の不徴収を認めたことは、実行可能性や執行可能性に配慮した国税庁による苦肉の策だったのかもしれません。
★実際の税金の申告や個別の税務相談等は、税理士に依頼しましょう。★
※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。