暗号資産の損益計算vol1:暗号資産の売買等

この記事では、暗号資産(仮想通貨)に関する個人の所得税の税金の基本的な取扱い、とりわけ損益計算の基本的な考え方について、国税庁の「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(以下FAQ)」を適宜参照しつつ、事例付きで解説していきます。(税務相談・税務調査対応等のお仕事依頼はこちら)

といっても、国税庁のFAQに書いてあることを単にコピペするだけでは面白くありませんよね💦

ありがたいことに、は、普段、税理士として、暗号資産やNFTの税務相談、損益計算、確定申告書の作成業務等の依頼を多く頂いております。

最近では、暗号資産やNFTの税金に関する質問を多くいただくようになりましたので、この記事では、適宜、納税者の方が暗号資産の税金に対して抱く素朴な疑問に対する回答になるような話を織り込んでいきます。

さて、令和3年の確定申告シーズンが終わりつつある現在、納税者の方が抱いている疑問は、ある程度共通しているのかなと感じてます。どのような疑問でしょうか?

それは次のようなものです。

「なんで、暗号資産って、こんなに税金高くなるの?」

他方で、私の経験上、次のような気持ちを抱いている納税者の方も珍しくありません。

「暗号資産等の税金は高いのはわかる。納税もする。でも、何故高くなるのか納得したい。」

理由がよく分からないのにお金だけ持って行かれるのは、やはり気分が良くないものだと思います。

そこで、この記事では、暗号資産の税金が高くなる仕組み、その原因である損益計算という基本的な論点を中心に事例を使って説明します。

納税者の方々には、暗号資産の税金についてある程度理解していただきたい。その上で、税金対策や納税プランを準備していただきたい。多額の税金を納めることになるとしても、その税額の根拠を理解していただいた上で、一国民として、現行税制上の問題点は何か、どのように制度改正されるべきかなど、自分の国の税金に向き合っていただきたいと考えております。

もちろん、最終的には、「暗号資産に関する日本の税金は高すぎるので、税制改正を要望する!」という見解に向かわれるかもしれませんが、そうであったとしても、是非、暗号資産の税金の仕組みについて理解をいただいてから、そちらの方向へと旅立っていただきたいのです。

なお、このマガジンで事例として用いる取引は、特に断りのない限り、一時的に必要な暗号資産を取得した場合には該当しないケースです。

目次

よくある質問「まだ暗号資産を日本円と交換していないのですが、なぜ税金が課されるのですか?」

暗号資産の税金計算をする時、よく聞かれる質問の1つに、次のようなものがあります。

「まだ暗号資産を日本円と交換していないのですが、なぜ税金が課されるのですか?」

特に、ADAをプレセールで取得した人にとっては、現在進行形で頭を悩ませている問題ではないでしょうか?
ETHを使ってNFTを購入した人、NFTを購入するためにBTCとETHを交換した人も同様でしょう。

税金を課される所得として、皆さんがイメージするのは、自分の口座に振り込まれる給与や事業の報酬だと思います。
これらは日本円で振り込まれることが通常です。

このため、「日本円を獲得」→「税金が課される」といった認識を持たれている方は多くいるのではないでしょうか。
しかし、税法の世界のルールは、時折、世間一般の認識や常識とは少し異なる考え方で作られているので、要注意なのです。

では、収入や費用の計上時期(タイミング)に関する税法のルールはどうなっているのでしょうか?
所得の発生と認識については、かなり奥が深い世界ですので、ここでは、簡単にイメージをつかんでいただければいいのかなと思っています。

魚と肉の物々交換を想定したときに、自分が魚を相手に渡し、代わりに相手から肉をもらうわけです。魚を譲渡し、お肉を収入という感じですね。

日本円でお肉を購入する場合には、日本円を譲渡したことによる収入は観念しないことになっているのですが、日本円以外のもので交換する場合には、その所有していたものの価値の増加益が確定し、外部から収入が入ってくると考えてもいいかもしれません。

この程度の理解でいいと考えています。
いずれにせよ、BTCを譲渡して、代わりにETHを譲り受けた場合には、BTCの含み益又は含み損(取得した金額と譲渡時の時価との差額と考えておきましょう)を計上することになるのです。

こういった場合に、暗号資産同士の交換は「課税イベント」であるとか、「利確のタイミング」であると一般に表現されているようです。

事例1:暗号資産を日本円で売却したケース

問 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか?

1.2017年12月1日に200万円で2BTC(時価:1BTC=100万円)を購入した。
2.2022年4月1日に0.5BTCを250万円(時価:1BTC=500万円)で売却した。
※手数料については省略。

次のとおり、所得金額の計算を行います(FAQ4頁)。

要は、取引に係る収入金額から、その原価(や費用)を引くことによって、儲けを出すことになります。

お金には色がないように、譲渡した暗号資産にも色がないことを前提にしているかのようなルールが作られています。つまり、暗号資産の譲渡原価は個別に計算するのではありません。継続してBTCを購入している方が、今日売却したBTCは3日前に購入したBTCであるといったような計算をするのではないということです。

「このBTCは初めて購入した暗号資産だから売らないんだ!他のBTCを売っているんだ」というようなことは、技術的にできても、税金の計算上はできないと思っておきましょう。

では、どのような計算が求められているのでしょうか?
ざくっと取得価額の平均値を出して譲渡原価を算定しているようなイメージをおもちになっていればいいでしょう!

①譲渡価額(売却価額)
暗号資産の売却取引に係る収入金額は、原則として、譲渡価額(売却価額)です(所得税法36)。

②譲渡した暗号資産の1単位当たりの取得価額(譲渡原価の計算1)
譲渡した暗号資産の1単位当たりの取得価額は、原則として、総平均法又は移動平均法のうちいずれか選択した方法により計算した金額となります(所得税法48の2、同法施行令119の2~5)。

この選択は、暗号資産の種類ごとに、所轄税務署長への届出により行います。選択しなかった場合には、個人の納税者は総平均法(法人の納税者は移動平均法)になります。

上記のケースにおいて、購入は1度だけですので、総平均法だろうが、移動平均法だろうが、変わりません(総平均法と移動平均法を使った事例の比較については別の記事で掲載する予定です)。
「200万円÷2BTC」は、2017年12月1日に購入した時の1BTCあたりの取得価額を算出しています。

なお、この場合の計算の基礎となる取得価額は、原則として、次の金額です。

・購入した暗号資産については、その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

・これ以外の暗号資産については、その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額

③譲渡した暗号資産の数量(譲渡原価の計算2)
2022年4月1日に売却したBTCは0.5BTCなので、上記②と合わせると、「200万円÷2BTC×0.5BTC」という式により、譲渡したBTCの譲渡原価(50万円)が算出されます。

④所得金額(儲けた額)
最後に実際に得た収入250万円から譲渡原価50万円を控除することで、所得金額200万円が算出されます。
要するに50万円で取得した暗号資産を売って、250万円を獲得したことになりますから、50万円を差し引いた200万が利益(儲けた額)ということになります。

このケースのポイントとしては、2017年から2022年までの間、BTCは日々大幅な値動きがあったということです。

参照元:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/bitcoin/

しかし、2017年12月1日に2BTCを取得した以後、2022年4月1日までに(この日に売却するまでに)、この2BTCは他者への譲渡や、何らかのサービスへの支払いを行っていないことから、課税イベントが発生しておらず、2017-2021年においては所得計算が不要ということになります。

事例2:暗号資産同士を交換して利益が出たケース

問 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか?

1.2021年1月1日に200万円で10万ADA(時価:1ADA=20円)を購入した。
2.2022年4月1日に5万ADAを6ETH(時価:1ETH=40万円)で売却した。
※手数料については省略。

次のとおり、所得金額の計算を行います(FAQ6頁)。

今回、ADAを渡した見返りとして受け取ったのは日本円ではなく、暗号資産です。このように暗号資産同士を交換した場合も所得税が発生します。暗号資産以外の物々交換でも同じです。

現在、日本では、納税は日本円で行うことが大原則です。また、税額の計算の単位も日本円です。
ビットコインで納税したり、BTCという単位で税額を計算することはできません

よって、受領した暗号資産を日本円になおしてあげる必要があります。所得税のルールでは、金銭以外の物や権利等で収入した場合の収入金額は、その物や権利等を取得等した時点の時価となります(所得税法36条2項)。

よって、今回のケースではETHという暗号資産で収入していますから、その取得した時点の時価評価額を調べて、収入金額を算定してあげる必要があります。

要は日本円以外のもの(ここでは暗号資産)を受け取った場合は、その受け取った時点における、そのものの時価を収入金額に算入し、場合によっては日本円換算額を算出するという作業が、必要となるというイメージです
この考え方は暗号資産以外の、例えばNFTなどで収入する場合も同じです。

それ以外は事例1と同じ(譲渡価額(売却価額)は暗号資産の枚数に時価
をかけて日本円換算します)になります。

では、次に暗号資産同士で交換して損失が出た場合のケースを見てみましょう。

事例3:暗号資産同士を交換して損失が出たケース

問 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか?

1.2021年5月1日に300万円で30BCH(時価:1BCH=10万円)を購入した。
2.2022年4月1日に15BCHを6,500XRP(時価:1XRP=100円)で売却した。
※手数料については省略。

次のとおり、所得金額の計算を行います(FAQ6頁)。

事例1、2と基本的な部分は同じです。

このケースの場合、BCHを売却して得られたXRPの日本円換算額(評価額)がBCHを取得した際に払った日本円を下回るため、損失(赤字)となっています。

事例4:暗号資産を支払ってサービスや物を購入したケース

問 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか?
1.2021年6月1日に80万円で20BNB(時価:1BNB=4万円)を購入した。
2.2022年3月15日に10BNB(時価:1BNB=4.5万円)で税理士に暗号資産の損益計算及び確定申告料金45万円を支払った。
※手数料については省略。

次のとおり、所得金額の計算を行います(FAQ5頁)。

事例1-3と概ね同じなのですが、
①譲渡価額(売却価額)は、購入した物やサービスの価額をそのまま用いても構いません。

なお、この時に購入した物やサービスが、暗号資産の所得を得るために必要な経費として認められる場合、暗号資産の所得額から控除できます。
税理士の損益計算料金、確定申告代金は所得税法37条の必要経費に該当するため、この「4.5万円×10BNB=45万円」は、別途、所得金額の計算にあたり控除できます。

ちなみに、個人事業主や法人の場合に、暗号資産で従業員に対し給与等を支給した場合も、この計算方法で所得金額を算出することとなります(FAQ39頁)。
その際、上記式の①については暗号資産の給与支給時の時価(=給与支給額)を用いてください。

この場合、暗号資産による支給分も給与所得の収入金額に該当するため、給与の一部を現金で支払っている場合には、現金での支給額に暗号資産による支給額を加算した金額で源泉徴収税額の計算を行うこととなります。

事例5:2022年に事例1~4の取引をしていたケース

事例1、2、3、4の取引を同一人物が行っていた場合、2022年の所得は一体どうなるのでしょうか。

事例1、2、3、4の所得・損失をまとめると下記のようになります。

事例1:200万円の所得
事例2:140万円の所得
事例3:85万円の損失
事例4:5万円の所得

これらを全て合算すると

となり、所得が260万円であるとわかります。

この金額から、収入を稼ぐための費用、具体的には、暗号資産取引のためのインターネットの回線利用料、パソコン等の購入費用や事例4の税理士費用など(FAQ13頁)を控除します。

ただし、自宅の私用パソコンで暗号資産取引を行っている場合のように、個人的な支出(消費)としての性質と、収入を稼ぐための費用としての性質が混在しているようなものについては、別途合理的な区分をするなどの対応が必要になります。
この辺りは、個別の事例によりますし、場合によっては税務署との折衝になりますので、税理士に相談する方がよいでしょう。

その後、医療費控除やふるさと納税などによる寄附金控除などに代表される各種控除を引いた後、累進税率をかけ算してあげると、所得税の金額が出てきます。

大雑把にはなりますが、以上が暗号資産取引から始まって、最終的な税額を算出するまでの、基本的な所得計算の流れとなります。

暗号資産の取引が上記で示したものにとどまっているのであれば、全国の税理士さんがここまで苦しむようなものではなかったのですが。。。

他にもNFT取引、流動性供給やラップ化などなど、取引の実態や税金の取扱いが「?」なものが山盛りであり、この点が暗号資産に関する税金を計算するにあたって非常に辛いところなのです。
このあたりは、個人の確定申告を請け負う税理士としても、それなりにハードルの高い領域だと思います。

それらの取引についても順次検討してしていく予定ですので、応援よろしくお願いします。

注意喚起(20万円以下は確定申告不要の取扱い)

最後に注意喚起をしておきます。

暗号資産による雑所得の金額が年間で20万円以下であれば、確定申告が常に不要と誤解を与えるような記述や説明が足りないような記述をネットでよく見かけるので注意喚起をしておきます。

この点は、国税庁のタックスアンサーの説明がわかりやすいので、引用いたします。

給与等の収入金額が2,000万円以下である給与所得者が、1か所から給与等の支払を受けており、その給与について源泉徴収や年末調整が行われる場合において、給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であるときは、原則として確定申告を要しないこととされています。

しかし、この規定は確定申告を要しない場合について規定しているものであり、確定申告を行う場合にも、この20万円以下の所得を申告しなくてもよいという規定ではありません。

したがって、給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であることにより、給与所得者が確定申告を要しない場合であっても、例えば、医療費控除の適用を受けるための還付申告を行う場合には、給与所得だけでなく、その20万円以下の所得も併せて申告をする必要があります。
(所法121,122)

その年に給与所得を有する方が確定申告不要になる話であることと、たとえば医療控除や寄附金控除を適用するなどするために申告する方は20万円以下の所得も併せて申告する必要があることに注意が必要です。

また、この申告不要の制度は国税の取扱いにすぎず、住民税にはないため、原則として住民税の申告は必要となります。

★実際の税金の申告や個別の税務相談等は、税理士に依頼しましょう。★

※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。

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