事例EX LPトークンの計算処理の検討

(注意1)この記事は「事例でわかる!NFT・暗号資産の税務(第2版)」で記載しきれなかった論点について解説しています。
(注意2)この記事はDEXの流動性供給の処理をどうするべきかの検討の途中経過記録(たたき台)になります。この処理が正しい処理として示唆するものではないのでご注意ください。もし何かお気づきのことがあればTwitterのDMでお知らせください。

目次

1.LPトークンの取引パターン

(1)LPトークン(自己発行)の発行

(2) LPトークン(自己発行)を流動性マイニングに用いる

(3)LPトークン(自己発行)を流動性マイニングから解除する

(4) LPトークン(自己発行)を売却

(5)LPトークン(自己発行)を返却

(6)LPトークン(他者発行)を購入

(7)LPトークン(他者発行)を売却

(8)LPトークン(他者発行)を返却

 これ以外にLPトークンと他のトークン(ETHとかUSDC)で流動性供給を行うことも可能です。取引の流れとしては

ETH-USDCを流動性提供してLPトークンαを発行したとします。 そのあとLPトークンα-ETHを流動性提供してLPトークンβを発行します。 そうすると別の人がそのプールに対してETHを売ることでLPトークンαを購入できます。 逆にLPトークンαを売ることでETHを購入することもできます。

 といったものになります。こちらについても解説をします。

2.LPトークンの論点

 実務上、流動性供給については、「①流動性供給は課税イベントではない」とする考え方と「②流動性供給は課税イベントである」という2つの異なる考え方が存在します。

 どちらの考え方を採るべきかについて、現時点で明確な答えは出ていません。ただ、泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税―ブロックチェーン・スマートコントラクトを利用した分散型デジタル社会―」税法学589号159頁によると、処分権の移転に着目した場合、流動性供給の開始はトークンの含み損益に係る課税イベントではないという見解を示しています。

 一方、実務上の処理のしやすさを考慮すると流動性供給の開始は課税イベントであるという見解を採る方もいるのではないかと思います(海外の損益計算ソフトだとこちらの方法を採用している所が多いです)。

 また、LPトークンは流動性供給によって獲得する以外に、他者が発行したLPトークンを購入、売却、流動性供給解除も可能です。そのため、計算方法の検討にはこういったLPトークン特有の事情も考慮する必要があります

 さらにLPトークンは規格ごとにNFTか、FTかが異なります。それに対してどこまで厳密に考えるべきかという問題もあります。

3.LPトークンの計算処理

(1)LPトークン(自己発行)の発行

Q 次の取引を行った場合に、所得金額及びCake-LPの取得価額の計算はどうなりますか。なお、DEXに流動性供給した1BNBは2万円(時価:1BNB=2万円)、20CAKEは2万円(時価:1CAKE=1,000円)で取得したものとする。

2021年6月1日に1BNB(時価:1BNB=4万円)と20CAKE(時価:1CAKE=2,000円)をDEXに流動性供給し、代わりに4Cake-LPを取得した。
※手数料については省略。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合の流動性供給時の所得金額】

計算不要

(出典)泉 絢也=藤本剛平『事例でわかる! NFT・暗号資産の税務(第2版)』332頁(中央経済社,2023)

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時の所得金額】

・BNBの利益
(4万円 × 1BNB) – (2万円 ÷ 1BNB) × 1BNB = 2万円

①収入金額(4万円 × 1BNB):4万円
流動性供給時の時価と流動性供給したトークン数量を使用
②取得価額 ( (2万円 ÷ 1BNB)):2万円
③所得金額:2万円

・CAKEの利益
(2, 000円 × 20CAKE) – (2万円 ÷ 20CAKE) × 20CAKE = 2万円

①収入金額(2, 000円 × 20CAKE):4万円
流動性供給時の時価と流動性供給したトークン数量を使用
②取得価額 ((2万円 ÷ 20CAKE) × 20CAKE):2万円
③所得金額:2万円

(出典)泉 絢也=藤本剛平『事例でわかる! NFT・暗号資産の税務(第2版)』332頁(中央経済社,2023)

 本来的には Cake-LP の時価を収入金額とするという見解がありえますが、基本的には預けた2種類の暗号資産はその預けたタイミングで LPトークンと交換をしたとする課税イベントとして処理することとなるため、それぞれの利益を計算します。また、取得したLPトークンの取得価額は、次のとおり、2種類の暗号資産の時価の合計額となります(流動性供給を課税イベントではないとした場合、取得価額は0です)。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時のLPトークンの取得価額】
(4万円 × 1BNB) + (2,000円 × 20CAKE) = 8万円

①取得価額:8万円
流動性供給したトークンの流動性供給時の時価を用いる

(出典)泉 絢也=藤本剛平『事例でわかる! NFT・暗号資産の税務(第2版)』333頁(中央経済社,2023)

(2) LPトークン(自己発行・他者発行)を流動性マイニング(ファーミング)に用いる

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。
2022年3月1日に4Cake-LPをファーミングした。

A.

【LPトークン(自己発行・他者発行)をファーミングした時の所得金額】

計算不要

 ファーミング(事例でわかる! NFT・暗号資産の税務(第2版)ではステーキングと表現)を行った際は、それ自体では課税イベントに該当しないため、計算不要です。

 ただし、ファーミングによりガバナンストークン等のトークンを獲得した場合は、取得時の時価を所得金額として扱います((参考)泉 絢也=藤本剛平『事例でわかる! NFT・暗号資産の税務(第2版)』338-339頁(中央経済社,2023))。

(3)LPトークン(自己発行・他者発行)を流動性マイニングから解除する

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。
2022年3月10日に4Cake-LPのファーミングを解除した。

A.

【LPトークン(自己発行・他者発行)をファーミング解除した時の所得金額】

計算不要

 ファーミング(事例でわかる! NFT・暗号資産の税務(第2版)ではステーキングと表現)を解除した際は、それ自体では課税イベントに該当しないため、計算不要です。

(4) LPトークン(自己発行)を売却

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。なお、  
 DEXに流動性供給した1BNBは2万円(時価:1BNB=2万円)、20CAKEは2万円(時価:1CAKE=1,000円)で取得したものとし、Cake-LPは1BNB(時価:1BNB=4万円)と20CAKE(時価:1CAKE=2,000円)をDEXに流動性供給し、代わりに4Cake-LPを取得したものとする(要は(1)と同条件。以下同様)。

 2022年4月1日に4Cake-LPを0.2ETH(時価:1ETH=40万円)で売却した。
なお、売却時における1BNBの取得原価は1万円、1CAKEの取得原価は1,000円とする。
※手数料については省略。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合のLPトークン売却時の所得金額】
40万円 × 0.2ETH – (1万円 × 1BNB+ 1,000円× 20CAKE) = 5万円

①収入金額(40万円 × 0.2ETH):8万円
②取得価額 (1万円 × 1BNB+ 1,000円× 20CAKE):3万円
この場合、LPトークンそのものではなく、預け入れていた暗号資産と交換したものとして捉え、預け入れ暗号資産の売却時の取得価額を用いています。
また、流動性供給によって獲得した4Cake-LPのうち、例えば3Cake-LPを売却した場合は3万円×3/4=2.25万円になります。
③所得金額:5万円

 流動性供給を課税イベントではないとした場合、LPトークンではなく、流動性供給のため預け入れていた暗号資産を用いた交換として処理します。
 課題としては売却したLPトークン自体は流動性供給解除されておらず、厳密に言えば、預け入れていた暗号資産はまだDEXにあるため、売却されていないことでしょうか。ただ、本事例ではその預け入れていた暗号資産の所有権はLPトークン購入者の方に移ったものとして処理しています。

 また、損益計算プログラムを組んだり、損益計算ソフトのカスタムファイルを作成する場合は下記のような計算方法もあり得るかと思います(預け入れトークンの価格差まで考えると違和感はありますが、損益計算の結果自体は変わらないです)。

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合のLPトークン売却時の所得金額ver2】
①40万円 × 0.2ETH ÷ 2 – (1万円 × 1BNB) = 3万円
②40万円 × 0.2ETH ÷ 2 – (1,000円× 20CAKE)) = 2万円
① + ② =5万円

 次に流動性供給を課税イベントであると解釈した場合の処理を見てみましょう。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合のLPトークン売却時の所得金額】
40万円 × 0.2ETH – (4万円 × 1BNB) + (2,000円 × 20CAKE) = 0円

①収入金額(40万円 × 0.2ETH):8万円
売却時の時価と売却により受け取ったトークンの数量を使用
②取得価額 ((4万円 × 1BNB) + (2,000円 × 20CAKE)):8万円
ここでの取得価額は(1)で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した4Cake-LPのうち、例えば3Cake-LPを売却した場合は8万円×3/4=6万円になります。
③所得金額:0円

 流動性供給を課税イベントとした場合は、(1)で見たLPトークンの取得価額を用いて、所得計算を行います。つまり、LPトークンを通常の暗号資産と計算上同様に扱うというイメージでよいかと思います。

(5)LPトークン(自己発行)を返却

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。なお、  
 DEXに流動性供給した1BNBは2万円(時価:1BNB=2万円)、20CAKEは2万円(時価:1CAKE=1,000円)で取得したものとし、Cake-LPは1BNB(時価:1BNB=4万円)と20CAKE(時価:1CAKE=2,000円)をDEXに流動性供給し、代わりに4Cake-LPを取得したものとする(要は(1)と同条件。以下同様)。

 2021年7月1日に4Cake-LPを返却した。同時に0.8BNB(時価:1BNB=2万円)と30CAKE(時価:1CAKE=1,000円)が返却された。
 なお、流動性解除時の1BNBの取得原価は3万円、1CAKEの取得原価は1万円であるものとする。
※手数料については省略。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額】

・BNBの損益(流動性供給により暗号資産の枚数が減少した場合の損失)
(0.8BNB – 1BNB)  × 3万円 = △0.6万円

①流動性供給解除により減少したトークン数((0.8BNB – 1BNB) ):0.2BNB
②流動性解除時の1BNBの取得原価:3万円
③所得金額:△0.6万円

・CAKEの損益(流動性供給により暗号資産の枚数が増加した場合の利益)
(30CAKE – 20CAKE) × 1,000円 = 1万円

①流動性供給解除により増加したトークン数((30CAKE – 20CAKE) ):10CAKE
②流動性解除時の1CAKEの時価:1,000円
③所得金額:1万円

 流動性供給を課税イベントとしない場合においても、流動性供給を解除すると返却されるトークンの数量は、預けた時の数量から増減しています
そのため、そのトークンの増減について所得計算を行う必要があります。
 
トークン減少時は流動性供給解除時の取得原価に減少したトークンの数量を乗じた金額をもって損失計上します。トークン増加時は流動性供給解除時の時価に増加したトークンの数量を乗じた金額をもって収益計上します。

 トークンが増加した時、減少した時で用いる価格が異なるので注意が必要です。

 なお、流動性供給に用いた2種類の暗号資産(事例の場合、BNBとCAKE)ごとに流動性解除時点の時価に戻ってきた暗号資産の数量を乗じた金額から流動性供給時の取得価額に流動性供給を行った暗号資産の数量を乗じた金額を乗じた金額を差し引く方法や流動性供給により増減した数量を流動性供給実施期間ごとに按分して計算する方法も考えられなくもないのですが、その場合、年をまたいで流動性供給を行ったケースの損益計算を行うことが非常に困難になる(過去に遡って損益計算をやり直すことになる)ことと、流動性供給が課税イベントではないことからある種のステーキングを行っているものとして、本書では上記の方法を紹介しております。

 次に流動性供給を課税イベントであると解釈した場合の処理を見てみましょう。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額】

(2万円 × 0.8BNB) + (1,000円 × 30CAKE) –  (4万円 × 1BNB) + (2,000円 × 20CAKE)= △3.4万円

①収入金額((2万円 × 0.8BNB) + (1,000円 ×30CAKE) ):4.6万円
返却時の時価と返却により受け取ったトークンの数量を使用
②取得価額 ((4万円 × 1BNB) + (2,000円 × 20CAKE)):8万円
ここでの取得価額は(1)で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した4Cake-LPのうち、例えば3Cake-LPを売却した場合は8万円×3/4=6万円になります。
③所得金額:△3.4万円

 流動性供給を課税イベントであると解釈した場合、LPトークンをFTまたはNFTとして扱い、その取得原価を流動性解除時に受け取ったトークンの時価の合計額から控除した残額を所得として計上します。

 また、損益計算プログラムを組んだり、損益計算ソフトのカスタムファイルを作成する場合は下記のような計算方法もあり得るかと思います(預け入れトークンの価格差まで考えると違和感はありますが、損益計算の結果自体は変わらないはず)。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額ver2】
①(2万円 × 0.8BNB) + (1,000円 ×30CAKE) ÷ 2 – (4万円 × 1BNB) = △1.7万円
②(2万円 × 0.8BNB) + (1,000円 ×30CAKE) ÷ 2 – (2,000円 × 20CAKE) = △1.7
万円
① + ② =△3.4万円

(6)LPトークン(他者発行)を購入

Q 次の取引を行った場合に、取得価額の計算はどうなりますか。
2022年4月1日に0.1ETH(時価:1ETH=40万円)で4Cake-LPを購入した。
※手数料については省略。

A.

【対価を支払ってLPトークン(他者発行)を取得した場合の取得価額】
40万円 × 0.1ETH = 4万円

 他者発行のLPトークンを取得するための方法は原則的に自分が保有している暗号資産との交換になります。

 そのため、他者発行のLPトークンを購入した場合における取得価額の算定方法は購入した際に支払った暗号資産等の時価を用いる方法になります。

 自己発行のLPトークンと損益計算の処理が異なってくる(自分自身が流動性供給を行う処理を行っていない)ため、計算を行う際には注意が必要になります。

(7)LPトークン(他者発行)を売却

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。
2022年7月1日に他者から0.1ETH(時価:1ETH=40万円)で購入した4Cake-LPを0.2ETH(時価:1ETH=15万円)で売却した。
※手数料については省略。

A.

【LPトークン(他者発行)の売却時の所得金額】
(15万円 × 0.2ETH) – (40万円 × 0.1ETH)  = △1万円

①収入金額((15万円 × 0.2ETH) ):3万円
②取得価額 (40万円 × 0.1ETH):4万円
ここでの取得価額は(6)で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した4Cake-LPのうち、例えば3Cake-LPの流動性供給解除をした場合は4万円×3/4=3万円になります。
③所得金額:△1万円

 他者発行のLPトークンを売却した場合、「(6)LPトークン(他者発行)を購入」と同様に、通常のNFT、FTを売却した時の処理になるかと思います。

(8)LPトークン(他者発行)を返却

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。
2022年7月1日に他者から0.1ETH(時価:1ETH=40万円)で購入した4Cake-LPの流動性供給を解除し、同時に1.2BNB(時価:1BNB=3万円)と30CAKE(時価:1CAKE=400円)が返却された。
※手数料については省略。

A.

【LPトークン(他者発行)の流動性供給解除時の所得金額】
(3万円 × 1.2BNB) + (400円 ×30CAKE) – 40万円 × 0.1ETH = 0.8万円

①収入金額((3万円 × 1.2BNB) + (400円 ×30CAKE) ):4.8万円
②取得価額 (40万円 × 0.1ETH):4万円
ここでの取得価額は(6)で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した4Cake-LPのうち、例えば3Cake-LPの流動性供給解除をした場合は4万円×3/4=3万円になります。
③所得金額:0.8万円

 他者発行のLPトークンの流動性供給を解除した場合は「(6)LPトークン(他者発行)を購入」と同様に、通常のNFT、FTを売却した時の処理になるかと思います(他者発行のLPトークンの発行時に預けたトークンの取得原価や時価の割り出しは実務上困難)。

4.LPトークン(自己発行)を更に流動性供給した時の処理

 ここでは自ら流動性供給を行い、獲得したLPトークン(以下、LPトークンA)を更に流動性供給し、LPトークン(以下、LPトークンB)を獲得した場合(以下、多重流動性供給と呼称)の処理について検討します。
 簡単な例(ややこしいので使用する通貨は固定してます)を挙げると

甲がETH-USDCを流動性供給してLPトークンAを発行。
そのあと甲がLPトークンAとETHを流動性供給してLPトークンBを発行。
そうすると乙がそのプールに対してETHを売ることでLPトークンAを購入可能となる。
逆に甲がLPトークンAを売ることでETHを購入することも可能となる。
それ以外にLPトークンBをの売却や流動性供給解除によるLPトークンAとETH
の返却を受けることも可能。

 といったものになります。なお、LPトークンBをさらに流動性供給し、LPトークンCを獲得することも可能です。

整理すると、多重流動性供給における処理は
(1)LPトークンBの発行
(2)流動性供給中のLPトークンAの売却
(3)LPトークンBの売却
(4)LPトークンBの返却
ということになります。
なお、他者発行のLPトークンについてはそれが通常の流動性供給によるものか多重流動性供給によるかの判別は困難かつ、損益に影響はないため取り上げません。

ちなみにこの取引はUni-V2形式ならできますが、最新の規格であるUni-V3、Uni-V4形式ではできません(他にもできるDappsはあるかもしれませんが、仕組み上やれるけど、やるインセンティブがないのでやってる所は多くないはず。)。ユーザー側も税金計算がメチャクチャ大変になり、積極的に行う人も少ないので、この損益計算に直面する機会は少ないかもしれません。

なお、1度の損益計算中で流動性供給を課税イベントであるという考え方と流動性供給を課税イベントでないという考え方が混ざることは認められない可能性が高いです(損益計算の結果が変わってしまうため、一度どちらかのやり方を選択したら2度と変更してはいけない)。

(1)LPトークンBの発行

Q 次の取引を行った場合に、Uni-V2(A)とUni-V2(B)の所得金額及び取得価額の計算はどうなりますか。なお、Uni-V2(A)取得のため、DEXに流動性供給した0.1ETHは2万円(時価:1ETH=20万円)、200USDCは2万円(時価:1USDC=100円)、600MATICは3万円(時価:1MATIC=50円)で取得したものとする。

2023年5月1日に0.1ETH(時価:1ETH=30万円)と200USDC(時価:1USDC=150円)をDEXに流動性供給し、代わりに3Uni-V2(A)を取得した。
2023年6月1日に3Uni-V2(A)と200MATIC(時価:1MATIC=120円)をDEXに流動性供給し、代わりに6Uni-V2(B)を取得した。6Uni-V2(B)時点において1ETHの時価は26万円、1USDCの時価は140円であったものとする。

※手数料については省略。
※Uni-V2について、LPトークンAに該当するものは、Uni-V2(A)、LPトークンBに該当するものは、Uni-V2(B)と呼称する(以下同じ)。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合の流動性供給時の所得金額】

Uni-V2(A)
計算不要
Uni-V2(B)
計算不要

次に流動性供給を課税イベントであると解釈した場合の処理を見てみましょう。まずはUni-V2(A)の所得金額と取得原価の確認です。こちらは3.(1)の処理と同じです。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時(5/1)の所得金額】

Uni-V2(A)
・ETHの利益
(30万円 × 0.1ETH) – (2万円 ÷ 0.1ETH) × 0.1ETH = 1万円

①収入金額(30万円 × 0.1ETH):3万円
流動性供給時の時価と流動性供給したトークン数量を使用
②取得価額 ( (2万円 ÷ 0.1ETH) × 0.1ETH):2万円
③所得金額:1万円

・USDCの利益
(150円 × 200USDC) – (2万円 ÷ 200USDC) × 200USDC = 1万円
①収入金額(150円 × 200USDC):3万円
流動性供給時の時価と流動性供給したトークン数量を使用
②取得価額 ((2万円 ÷ 200USDC) × 200USDC):2万円
③所得金額:1万円

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時(5/1)のLPトークンの取得価額】

Uni-V2(A)
(30万円 × 0.1ETH) + (150円 × 200USDC) = 6万円
①取得価額(3Uni-V2(A)):6万円
流動性供給したトークンの流動性供給時の時価を用いる

次にUni-V2(B)の所得金額と取得原価の確認です。こちらも原則的に3.(1)の処理と同じです。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時(6/1)の所得金額】

Uni-V2(B)
・Uni-V2(A)の利益
(0円× 3Uni-V2(A)) – (6万円 ÷ 3Uni-V2(A)) × 3Uni-V2(A) = △6万円

①収入金額(0円× 3Uni-V2(A)):0円
流動性供給時の時価と流動性供給したトークン数量を使用
or
売却時の時価と売却により受け取ったトークンの数量を使用
②取得価額 ((6万円 ÷ 3Uni-V2(A)) × 3Uni-V2(A)):6万円
ここでの取得価額は【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時(5/1)のLPトークンの取得価額】で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した3Uni-V2(A)のうち、例えば1Uni-V2(A)を流動性供給した場合は6万円×1/3=2万円になります。
③所得金額:△6万円

・MATICの利益
(120円 × 200MATIC) – (3万円 ÷ 600MATIC) × 200MATIC = 1万円
①収入金額(120円 × 200MATIC):2.4万円
流動性供給時の時価と流動性供給したトークン数量を使用
②取得価額 ((3万円 ÷ 600MATIC) × 200MATIC):1万円
③所得金額:1.4万円

 ここで問題となるのがUni-V2(A)の利益計算における収入金額は何を用いればいいのかという問題です。ざっと考えると3種類あります。
①Uni-V2(A)の時価
②Uni-V2(B)の時価
③Uni-V2(A)獲得のために流動性供給したトークンの時価合計額
 
 通常、モノの売買や物々交換においては等価交換が前提です。そのため、①、②のいずれかの時価が収入金額となると考えられます。しかし、①、②については実務上、時価の取得は非常に困難です(流動性供給したトークンはLPトークンごとによって異なるため、実質的にはNFTと変わらない)。
 それでは③はどうかというと、Uni-V2(B)発行のために行った流動性供給の時点ではUni-V2(A)を構成しているトークン(この場合ETHとUSDC)の数量が不明であり、これも非常に困難です(また、当該処理ではETHとUSDCを受け取っているわけではない)。
 よって、ここでは便宜上0円として処理しています。
 次にUni-V2(B)の取得価額はどうなるでしょうか。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給時(6/1)のLPトークンの取得価額】

Uni-V2(B)
(0円× 3Uni-V2(A))+ (120円 × 200MATIC) = 2.4万円
①取得価額(6Uni-V2(B)):2.4万円
流動性供給したトークンの流動性供給時の時価を用いる

 こちらもUni-V2(B)発行時の所得金額の時と同様にUni-V2(A)、Uni-V2(B)の時価が不明という問題が発生します。

(2)LPトークンBを売却

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。なお、Uni-V2(A)取得のため、DEXに流動性供給した0.1ETHは2万円(時価:1ETH=20万円)、200USDCは2万円(時価:1USDC=100円)、600MATICは3万円(時価:1MATIC=50円)で取得したものとする。

2023年5月1日に0.1ETH(時価:1ETH=30万円)と200USDC(時価:1USDC=150円)をDEXに流動性供給し、代わりに3Uni-V2(A)を取得した。
2023年6月1日に3Uni-V2(A)と200MATIC(時価:1MATIC=120円)をDEXに流動性供給し、代わりに6Uni-V2(B)を取得した。6Uni-V2(B)時点において1ETHの時価は26万円、1USDCの時価は140円であったものとする。

2022年10月1日に6Uni-V2(B)を0.4ETH(時価:1ETH=25万円)で売却した。
なお、売却時における1ETHの取得原価は15万円、1USDCの取得原価は140円,1MATICの取得原価は80円とする。
※手数料については省略。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合のLPトークン売却時の所得金額】
25万円 × 0.4ETH – [(15万円 × 0.1ETH+ 140円 × 200USDC) ] + (1,000円 ×
200MATIC) = 4.1万円

①収入金額(25万円 × 0.4ETH):10万円
②取得価額 ([(15万円 × 0.1ETH+ 140円 × 200USDC) ] + (80円 × 200MATIC)):5.9万円
 この場合、LPトークンそのものではなく、預け入れていた暗号資産と交換したものとして捉え、預け入れ暗号資産,つまり3Uni-V2(A)と6Uni-V2(B)の売却時の取得価額の合算値を用いています。
 また、流動性供給によって獲得した6Uni-V2(B)のうち、例えば3Uni-V2(B)を売却した場合は5.9万円 × 3/6=2.95万円になります。
③所得金額:4.1万円

 流動性供給を課税イベントではないとした場合、3.(4)同様にLPトークンではなく、流動性供給のため預け入れていた暗号資産を用いた交換として処理します。
 この場合、6Uni-V2(B)を構成するトークンは3Uni-V2(A)と200MATICであり、3Uni-V2(A)を構成するトークンは0.1ETHと200USDCとなるため、0.1ETHと200USDC、200MATICの売却時の取得原価の合計額を用いて所得計算を行うこととなります。

 次に流動性供給を課税イベントであると解釈した場合の処理を見てみましょう。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合のLPトークン売却時の所得金額】
25万円 × 0.4ETH – [(30万円 × 0.1ETH) + (150円 × 200USDC)] + (120円 × 200MATIC) = 1.6万円

①収入金額(25万円 × 0.4ETH):10万円
売却時の時価と売却により受け取ったトークンの数量を使用
②取得価額 ([(30万円 × 0.1ETH) + (150円 × 200USDC)]+ (120円 × 200MATIC)):8.4万円
ここでの取得価額は3Uni-V2(A)と6Uni-V2(B)の取得価額(LPトークンを構成するトークンの流動性供給開始時の時価)の合算値です。
また、流動性供給によって獲得した6Uni-V2(B)のうち、例えば3Uni-V2(B)を売却した場合は8.4万円 × 3/6=4.2万円になります。
③所得金額:1.6万円

 流動性供給を課税イベントとした場合、3.(4)の処理と原則は同じです。しかし、取得価額の計算においては、6Uni-V2(B)取得のために流動性供給した3Uni-V2(A)も実質的に手放すことととなるため、3Uni-V2(A)の取得価額と6Uni-V2(B)の取得価額の合算値を用いることとなります。

(3)LPトークンBを返却(LPトークンAが増加した場合)

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。なお、Uni-V2(A)取得のため、DEXに流動性供給した0.1ETHは2万円(時価:1ETH=20万円)、200USDCは2万円(時価:1USDC=100円)、600MATICは3万円(時価:1MATIC=50円)で取得したものとする。

2023年5月1日に0.1ETH(時価:1ETH=30万円)と200USDC(時価:1USDC=150円)をDEXに流動性供給し、代わりに3Uni-V2(A)を取得した。
2023年6月1日に3Uni-V2(A)と200MATIC(時価:1MATIC=120円)をDEXに流動性供給し、代わりに6Uni-V2(B)を取得した。6Uni-V2(B)時点において1ETHの時価は26万円、1USDCの時価は140円であったものとする。

2022年10月1日に6Uni-V2(B)を返却した。同時に4Uni-V2(A)(時価:不明)と150MATIC(時価:1MATIC=80円)が返却された。
なお、返却時における1MATICの取得原価は80円とする。
※手数料については省略。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額(LPトークンAが増加した場合)】

・Uni-V2(A)の損益(流動性供給によりLPトークンAの枚数が増加した場合の利益)
(4Uni-V2(A) – 3Uni-V2(A))  × 0円 = 0円

①流動性供給解除により増加したトークン数(4Uni-V2(A) – 3Uni-V2(A)
):1Uni-V2(A)
②流動性解除時の1Uni-V2(A)の時価:0円
③所得金額:0円

・MATICの損益(流動性供給により暗号資産の枚数が減少した場合の利益)(150MATIC – 200MATIC) × 80円 = △0.4万円

①流動性供給解除により減少したトークン数((150MATIC – 200MATIC)
):△50MATIC
②流動性解除時の1MATICの取得原価:80円
③所得金額:△0.4万円

 流動性供給を課税イベントではないという考え方で、多重流動性供給を解除し、LPトークンAが増加したケースでは、LPトークンAの時価が不明であること、および、増加したLPトークンAを構成するトークンの取得原価や時価が不明であることから、時価判定が不能なため、0円で処理します。
 なお、ここで0円処理しても、増加したLPトークンAを売却や返却した時点で利益が計上される可能性は高いです。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額(LPトークンAが増加した場合)】

(0円 × 4Uni-V2(A)) + (80円 × 150MATIC) –  (0円× 3Uni-V2(A))+ (120円 × 200MATIC) = △1.2万円

①収入金額((0円 × 4Uni-V2(A)) + (80円 × 150MATIC)):1.2万円
返却時の時価と返却により受け取ったトークンの数量を使用
②取得価額 ((0円× 3Uni-V2(A))+ (120円 × 200MATIC)):2.4万円
ここでの取得価額は4.(1)で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した6Uni-V2(B)のうち、例えば4Uni-V2(B)を売却した場合は2.4万円× 4/6=1.6万円になります。
③所得金額:△1.2万円

 流動性供給を課税イベントではあるという考え方で、多重流動性供給を解除し、LPトークンAが増加したケースにおいても、LPトークンAの時価が不明であること、および、増加したLPトークンAを構成するトークンの取得原価や時価が不明であることから、時価判定が不能なため、0円で処理します。
 なお、ここで0円処理しても、増加したLPトークンAを売却や返却した時点で利益が計上される可能性は高いです。

(4)LPトークンBを返却(LPトークンAが減少した場合)

Q 次の取引を行った場合に、所得金額の計算はどうなりますか。なお、Uni-V2(A)取得のため、DEXに流動性供給した0.1ETHは2万円(時価:1ETH=20万円)、200USDCは2万円(時価:1USDC=100円)、600MATICは3万円(時価:1MATIC=50円)で取得したものとする。

2023年5月1日に0.1ETH(時価:1ETH=30万円)と200USDC(時価:1USDC=150円)をDEXに流動性供給し、代わりに3Uni-V2(A)を取得した。
2023年6月1日に3Uni-V2(A)と200MATIC(時価:1MATIC=120円)をDEXに流動性供給し、代わりに6Uni-V2(B)を取得した。6Uni-V2(B)時点において1ETHの時価は26万円、1USDCの時価は140円であったものとする。

2022年10月1日に6Uni-V2(B)を返却した。同時に2Uni-V2(A)(時価:不明)と250MATIC(時価:1MATIC=80円)が返却された。
なお、返却時における1Uni-V2(A)の取得原価は1.83万円,1MATICの取得原価は80円とする。
※手数料については省略。

A.

【流動性供給を課税イベントではないという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額(LPトークンAが減少した場合)】

・Uni-V2(A)の損益(流動性供給によりLPトークンAの枚数が減少した場合の利益)
(2Uni-V2(A) – 3Uni-V2(A))  × [(30万円 × 0.1ETH) + (150円 × 200USDC)] ×
(3Uni-V2(A) – 2Uni-V2(A)) ÷ 3Uni-V2(A) = △2万円

①流動性供給解除により減少したトークン数((2Uni-V2(A) – 3Uni-V2(A))
):△1Uni-V2(A)
②流動性解除時のUni-V2(A)の取得原価([(30万円 × 0.1ETH) + (150円 × 200USDC)] × (3Uni-V2(A) – 2Uni-V2(A)) ÷ 3Uni-V2(A)):2万円
③所得金額:△2万円

・MATICの損益(流動性供給により暗号資産の枚数が増加した場合の利益)(250MATIC – 200MATIC) × 80円 = 0.4万円

①流動性供給解除により増加したトークン数((250MATIC – 200MATIC)
):50MATIC
②流動性解除時の1MATICの時価:80円
③所得金額:0.4万円

 流動性供給を課税イベントではないという考え方で、多重流動性供給を解除し、LPトークンAが減少したケースでは、減少したLPトークンの取得原価分だけ損失を計上することになると思います(計算ソフト等で流動性供給している暗号資産を別管理している場合は、別管理している暗号資産の数量も減らすとよいかと思います)。

【流動性供給を課税イベントであるという考え方を採用した場合の流動性供給解除時の所得金額(LPトークンAが減少した場合)】

(0円 × 2Uni-V2(A)) + (80円 × 250MATIC) –  (0円× 3Uni-V2(A))+ (120円 × 200MATIC) = △0.4万円

①収入金額((0円 × 2Uni-V2(A)) + (80円 × 250MATIC)):2万円
返却時の時価と返却により受け取ったトークンの数量を使用
②取得価額 ((0円× 3Uni-V2(A))+ (120円 × 200MATIC)):2.4万円
ここでの取得価額は4.(1)で解説したものと同じです。また、流動性供給によって獲得した6Uni-V2(B)のうち、例えば4Uni-V2(B)を売却した場合は2.4万円 × 4/6=1.6万円になります。
③所得金額:△0.4万円

流動性供給を課税イベントではあるという考え方で、多重流動性供給を解除し、LPトークンAが減少したケースにおいても、考え方は 「流動性供給を課税イベントではあるという考え方で、多重流動性供給を解除し、LPトークンAが増加したケース」と同じです。

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