特定譲渡制限付暗号資産とは|時価評価除外の要件

結論

特定譲渡制限付暗号資産に該当すれば、他社トークンであっても期末時価評価の対象外となる。要件は「移転制限」と「JVCEA公表手続」の2つ。

  • 理由① 令和6年度改正以前は、自社発行でない暗号資産は原則すべて期末時価評価の対象だった。この制度により、他社から取得したトークンでも移転制限がかかっていれば時価評価を回避できるようになり、法人の暗号資産保有に関する税負担の選択肢が広がった。
  • 理由② 法定評価方法は原価法であり、取得価額のまま据え置かれる。時価が上昇しても含み益課税が生じないため、長期保有を前提とする法人にとっては資金繰りの安定に直結する。ただし時価が下落しても評価損は計上できない点はデメリットとなる。
  • 条件 2つの要件のうち「JVCEA公表手続」は発行者側(または交換業者側)が行う手続であり、保有法人が単独でコントロールできない。移転制限が付されていてもJVCEAの公表がなければ要件を満たさないため、取得前に公表手続の有無を確認する必要がある。

法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の7

この記事でわかること

  • 特定譲渡制限付暗号資産の定義と2つの要件
  • 特定自己発行暗号資産との違い(4分類の全体像)
  • 技術的措置要件と信託要件の具体的内容
  • ステーキングのロックアップが該当しない理由
  • JVCEA公表手続の3類型と事業年度末のタイミング
目次

期末時価評価と暗号資産の4分類

【結論】法人が期末に保有する暗号資産は4つに区分され、原則として期末時価評価の対象となるのは「上記以外の暗号資産」(区分ニ)のみである。特定譲渡制限付暗号資産(区分イ・ロ)と特定自己発行暗号資産(区分ハ)は、要件を満たす限り時価評価が不要となる(法人税法第61条第2項、法人税法施行令第118条の7)。

令和5年度改正で自己発行の暗号資産(特定自己発行暗号資産)が時価評価の対象外となり、令和6年度改正では他社発行の暗号資産にも対象が拡大された。これが特定譲渡制限付暗号資産の制度である。

法人税法上、暗号資産は以下の4区分に分類される(国税庁FAQ 3-1-2)。

区分 内容 評価方法
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行でないもの) 法定:原価法(届出で時価法も可)
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行のもの) 時価評価対象外
特定自己発行暗号資産 時価評価対象外
上記以外の暗号資産 時価評価対象(活発な市場がある場合)

区分イの法定評価方法は原価法であるため、届出をしなければ期末時価評価の対象にならない。時価法を選定した場合にのみ時価評価の対象となる。

改正の背景

従来、法人が他社発行の暗号資産を保有する場合、活発な市場がある限り期末時価評価が強制され、含み益に対して法人税が課されていた。キャッシュフローを伴わない未実現利益への課税であり、Web3事業に投資する国内法人が海外投資家と比べて著しく不利な競争環境に置かれるとの指摘が、自由民主党デジタル社会推進本部web3PTや経済産業省から継続的になされていた。

この問題を受けて令和6年度改正が実現し、他社発行であっても一定の譲渡制限が付された暗号資産は時価評価の対象外とすることが可能になった。

関係法令:法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の6、第118条の7

特定譲渡制限付暗号資産の2要件

【結論】特定譲渡制限付暗号資産に該当するためには、①JVCEA規則に基づく移転制限が付されていること、②暗号資産交換業者がJVCEAを通じて当該制限の公表手続を行っていること、の2要件を満たす必要がある(法人税法施行令第118条の7第2項、暗号資産交換業府令第23条)。

要件①:移転制限

保有する暗号資産に対して、JVCEA規則に基づく移転制限(特定条件)が付されていること。ここでいう移転制限とは、暗号資産交換業者のルールに基づき、当該暗号資産の移転が制限されている状態を指す。

要件②:JVCEA公表手続

暗号資産交換業者がJVCEAを通じて、移転制限が付されている旨の公表のための一定の手続を行っていること。手続の具体的な類型は以下の3つである(暗号資産交換業府令第23条)。

類型 内容
(イ) 暗号資産交換業者に対し、移転制限を付すことを要請する
(ロ) 暗号資産交換業者に対し、移転制限が付された旨または付される予定である旨を通知する
(ハ) 他の者に対し、暗号資産交換業者への通知を行うことを要請する

事業年度末のタイミング

国税庁FAQ 3-1-11では、第三者が保有する暗号資産に移転制限を付し、暗号資産交換業者に通知済みだが、JVCEAウェブサイトでの公表が翌事業年度の見込みである場合の取扱いが示されている。

結論として、手続(上記の3類型のいずれか)を事業年度末までに行っていれば、JVCEAによる公表自体が翌事業年度になっても特定譲渡制限付暗号資産に該当する。「公表の手続を行っていること」が要件であり、「実際に公表されていること」は要件ではない。

関係法令:法人税法施行令第118条の7第2項 / 暗号資産交換業府令第23条

特定自己発行暗号資産の要件

【結論】特定自己発行暗号資産とは、内国法人が自ら発行し、発行時から継続して保有し、かつ発行時から継続して技術的措置要件または信託要件のいずれかを満たす暗号資産である。契約・合意のみによる譲渡制限では要件を充足しない(法人税法第61条第2項、法人税法施行令第118条の7、法人税法施行規則第26条の10)。

特定譲渡制限付暗号資産が他社発行を含む制度であるのに対し、特定自己発行暗号資産は自己発行に限定された制度である。令和5年度改正で導入された。

(ⅰ) 譲渡制限等技術的措置要件

他の者に移転することができないようにする技術的措置が講じられており、次の2つの要件をいずれも満たすこと。

  • 要件①:移転不可期間が定められていること
  • 要件②:発行法人等の関係者のみでは技術的措置を解除できないこと

要件②における「関係者」の範囲は以下のとおり。

対象者 具体例
発行法人等の役員・使用人 完全支配関係のある法人の役員等も含む
役員等の親族
役員等と事実上の婚姻関係にある者
役員等から生計維持を受ける者
上記の者と生計を一にする親族

国税庁FAQ 3-1-9では、マルチシグを用いた具体例が示されている。秘密鍵4個を作成し、うち3個で移転可能な設定とした上で、2個を顧問税理士(関係者に該当しない第三者)に2年間保管委託し、保管期間中は返却請求できない旨を取り決めたケースが挙げられている。この場合、技術的措置(マルチシグ)で移転不可、期間の定めあり(2年)、関係者のみでは解除不可(顧問税理士は関係者でない)の各要件を満たし、特定自己発行暗号資産に該当する。

なお、保管期間満了後は要件①を充足しなくなり、その時点から特定自己発行暗号資産に該当しなくなる。

(ⅱ) 譲渡制限等信託要件

暗号資産が受益者等課税信託の信託財産とされており、次の3つの要件をすべて満たすこと。

  • 信託の受託者が信託会社のみであり、かつ受益者等が当該内国法人のみであること
  • 信託契約において、受託者が信託財産を受託者等以外の者に譲渡しない旨が定められていること
  • 信託契約において、受益権の譲渡および受益者等の変更ができない旨が定められていること

「技術的措置」の意味

単なる契約や合意による譲渡制限だけでは特定自己発行暗号資産の技術的措置要件を満たさない。「技術的措置」とは、例えばトークンが保管されているコントラクトアドレスからの引出条件として「アドレスが指定されたものであること」かつ「預入から指定期間を経過していること」といった、スマートコントラクト上の制限を指すものと解される。

共同発行の場合

複数の事業者が共同で暗号資産を発行した場合、共同事業者間の契約・協定に従い、発行と同時に割当てを受けた暗号資産は「自ら行う共同事業に係る暗号資産を発行したことと同視」される。割当て時から継続して保有し、技術的措置要件または信託要件を満たせば、特定自己発行暗号資産に該当する(国税庁FAQ 3-1-10)。

関係法令:法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の7 / 法人税法施行規則第26条の10 / 法人税基本通達2-3-67の2

実務上の注意点

【結論】ステーキングのロックアップは特定譲渡制限付暗号資産の「移転制限」に該当しない。ロックアップ中であってもブロックチェーン上での移転自体が技術的に制限されていない場合、期末時価評価課税の対象となる(国税庁FAQ 3-1-6)。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。

ロックアップ ≠ 移転制限

法人がステーキングのために暗号資産をロックアップしている場合、物理的に引き出せない状態にあっても、以下の理由から期末時価評価の対象となる。

  • ロックアップ期間中もステーキング報酬を得ることが可能であり、将来的な価格変動リスク等を法人が負っているため、自己の計算において暗号資産を有すると判断される
  • 自己発行でないため特定自己発行暗号資産に該当しない
  • JVCEA規則に基づく移転制限が付されていないため特定譲渡制限付暗号資産にも該当しない

ロックアップ中で譲渡等できない暗号資産を期末時価評価課税の対象とすることに対しては、納税資金の面から納税者に酷であるとの指摘もあるが、現行法上は時価評価が必要である。

評価方法の届出

特定譲渡制限付暗号資産(自己発行でないもの=区分イ)の法定評価方法は原価法である。届出をしなければ自動的に原価法が適用され、期末時価評価の対象にならない。意図的に時価法を選定しない限り、要件を満たした時点で時価評価から除外される。

一方、時価法を届出により選定した場合は、活発な市場がある限り期末時価評価の対象となるため、届出の判断は慎重に行う必要がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 特定譲渡制限付暗号資産と特定自己発行暗号資産の違いは何ですか?

特定自己発行暗号資産は「自己発行+継続保有+技術的措置or信託」が要件であり、特定譲渡制限付暗号資産は「移転制限+JVCEA公表手続」が要件である。前者は自己発行に限定されるが、後者は他社発行を含む(法人税法施行令第118条の7)。

Q2. ステーキングでロックアップしている暗号資産は時価評価が不要になりますか?

不要にならない。ステーキングのロックアップはJVCEA規則に基づく移転制限ではないため、特定譲渡制限付暗号資産に該当しない。ロックアップ中でも期末時価評価の対象となる(国税庁FAQ 3-1-6)。

Q3. JVCEAの公表が翌事業年度にずれ込んでも、当期に特定譲渡制限付暗号資産として扱えますか?

扱える。要件は「公表のための手続を行っていること」であり、実際の公表が翌事業年度になっても、事業年度末までに手続(通知・要請等)を完了していれば該当する(国税庁FAQ 3-1-11)。

Q4. 契約のみで譲渡制限を設けた場合、特定自己発行暗号資産に該当しますか?

該当しない。特定自己発行暗号資産の技術的措置要件は、スマートコントラクト上の制限等の「文字どおりの技術的措置」を意味し、契約・合意のみでは充足しない(法人税法施行令第118条の7第2項、法人税法施行規則第26条の10)。

Q5. 特定自己発行暗号資産の保管期間が満了した場合はどうなりますか?

期間満了時点で要件を充足しなくなり、特定自己発行暗号資産に該当しなくなる。該当しなくなった事業年度以降は、活発な市場が存在する場合、期末時価評価課税の対象となる(法人税基本通達2-3-67の2)。

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関係法令

  • 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価の対象等)
  • 法人税法施行令第118条の6(暗号資産の譲渡原価等)
  • 法人税法施行令第118条の7(特定譲渡制限付暗号資産・特定自己発行暗号資産の要件等)
  • 法人税法施行令第118条の8(時価評価金額の計算)
  • 法人税法施行規則第26条の10(特定自己発行暗号資産の要件の細目)
  • 法人税基本通達2-3-67の2(特定自己発行暗号資産の取扱い)
  • 暗号資産交換業府令第23条(JVCEA公表手続の3類型)
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(法人税関係)」(FAQ)3-1-2、3-1-6、3-1-9、3-1-10、3-1-11
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