流動性提供の課税処理には複数パターンが併存するが、預入から解除までの最終損益はいずれのパターンでも一致する。国税庁の公式見解はない。
- 理由① 預入時を「課税イベントとする」場合、暗号資産→LPトークンの交換として譲渡損益を認識する。含み益のある暗号資産を預け入れると利確と同じ効果が生じるため、預入時点で納税資金の確保が必要になる。
- 理由② 預入時を「課税イベントとしない」場合、暗号資産の取得価額をLPトークンに引き継ぎ、解除時にまとめて損益を認識する。課税の繰延べとなるが、解除時の計算が複雑になる。いずれの方法でも最終損益は同額に収束するため、処理方法の選択は中間時点の課税タイミングの問題である。
- 条件 流動性提供中にインパーマネントロス(IL)が発生した場合、引出時に預け入れた暗号資産の構成比率が変わっている。ILは独立した損失ではなく、引出時の損益計算に織り込まれる構造であり、IL単体での損失計上はできない。
所得税法第36条第1項
この記事でわかること
- 流動性提供の預入時・解除時それぞれの課税タイミング
- 4つの会計処理パターン(A:売買処理、B:時価貸付、C:原価貸付、D:預入処理)の比較
- LPトークンの種類(暗号資産型・NFT型)と自己発行・他者発行の違い
- インパーマネントロスの税務上の取扱い
- 流動性提供の損益計算における実務上のトラブルと対処法
流動性提供の課税タイミング|2つの考え方
【結論】DEXへの流動性供給について「①課税イベントではない」とする考え方と「②課税イベントである」とする考え方の2つが実務上存在する。現時点で国税庁の公式見解は示されていない。採用する考え方により課税タイミングと計算方法が異なるため、税理士に相談してから決めるべきである。
DeFi税務の全体像と2つの考え方の概要は、DeFiの税金ガイド|課税タイミングと計算方法を参照されたい。本記事では各考え方の内部で分岐する会計処理パターンを詳しく解説する。
①課税イベントではないとする考え方
この考え方では、流動性供給の開始時点では課税関係が発生しない。国内の損益計算ソフトの多くはこの考え方を採用しており、流動性供給解除時にまとめて課税関係を認識する処理を行っている。
根拠は、DEXではスマートコントラクトが暗号資産を管理するのみで、流動性供給したトークンの処分権が移転する相手方(借り手)が存在しないため、処分権の移転がなく、トークンの含み損益に係る課税イベントとはならないという点にある。これは一種の自己取引にすぎないとする見解である(泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税」税法学589号159頁以下参照)。
②課税イベントであるとする考え方
この考え方では、預けた暗号資産をLPトークンと交換したものとみなし、預入時点で課税関係が発生する。国外の多くの見解では、トークンの移転により異なる種類のトークンを得る場合にはトークン同士の交換に該当し、含み損益に係る課税イベントになりうるとされている。
計算例を示す。1BNB(取得原価2万円、時価4万円)と20CAKE(取得原価2万円、時価1CAKE=2,000円)をDEXに流動性供給し、4 Cake-LPを取得した場合:
BNBの利益:
(4万円 × 1BNB) − (2万円 ÷ 1BNB) × 1BNB = 2万円
CAKEの利益:
(2,000円 × 20CAKE) − (2万円 ÷ 20CAKE) × 20CAKE = 2万円
流動性供給時の所得金額: 合計4万円
取得したLPトークンの取得価額は、預け入れた2種類の暗号資産の時価の合計額となる。
LPトークンの取得価額:
(4万円 × 1BNB) + (2,000円 × 20CAKE) = 8万円
なお、いずれの考え方を採用した場合でも、流動性供給の開始から解除までの全期間を通じた最終的な損益の合計額は一致する。異なるのは、損益が計上されるタイミングである。
4つの会計処理パターンの比較
【結論】課税イベントとする場合の会計処理にはA(売買処理)・B(時価貸付+時価借入)・C(原価貸付+時価借入)・D(預入+時価借入)の4パターンが存在する。パターンAは損益発生が最も早く、B・C・Dは解除時まで損益が繰り延べられる。どのパターンでも最終損益は一致する(所得税法第36条第1項)。
損益計算ソフトによって採用するパターンが異なる。海外ソフトではパターンAが多く、国内ソフトではパターンB〜Dを採用するケースが多い。
各パターンの特徴比較
| パターン | 処理の考え方 | 損益発生タイミング | 帳簿の複雑さ | 流動性供給の識別 |
|---|---|---|---|---|
| A(売買処理) | 預けた暗号資産でLPトークンを購入 | 供給開始時(最も早い) | シンプル | 帳簿上でわかりにくい |
| B(時価貸付+時価借入) | 暗号資産を時価で貸付、LPトークンを借入 | 解除時まで来ない | 最も複雑 | 貸付・借入が両方計上されわかりやすい |
| C(原価貸付+時価借入) | 暗号資産を取得原価で貸付、LPトークンを借入 | 解除時まで来ない | 中程度 | 貸付のみ計上されBよりわかりにくい |
| D(預入処理) | 暗号資産を預入、LPトークンを借入 | 解除時まで来ない | 最もシンプル | 帳簿上でまったくわからない |
供給開始時の処理
パターンAでは、流動性供給した2種の暗号資産とLPトークンの売買として処理する。LPトークンの時価が不明なため、2種の暗号資産の時価の合計額と等価として処理し、それぞれの取得原価との差額が損益計上される。
パターンBでは、2種の暗号資産をそれぞれ時価で貸し付けたものとして処理する。時価と取得原価の差額が損益計上される。LPトークンの取得は借入として扱うが、時価が取れないため結果的に0円となる。
パターンCはBと同様だが、貸付計上時に取得原価を用いるため、供給開始時の損益は計上されない。
パターンDでは、暗号資産の預入として処理するため、仕訳は計上しない。
供給解除時の処理
パターンAでは、LPトークンと戻ってきた2種の暗号資産の交換として処理する。インパーマネントロスにより当初の数量から増減して手元に戻るのが通常である。
パターンB・Cでは、貸し付けた暗号資産の返済と借り入れたLPトークンの返済が同時に行われる。返済時の時価と取得原価の差額を損益計上する。
パターンDでは、インパーマネントロスで増減した暗号資産のみを損益計算の対象とする。増加した場合はエアドロップと同様に計算し、減少した場合は減少分を時価で譲渡した扱いとする。
パターンDの注意点
パターンA・B・Cでは、流動性供給開始時の取得原価と解除時の時価が異なる場合に元本の損益増減が反映される。一方、パターンDでは預入とその引出しとして処理するため、一連の流れの中で取得原価が変動するタイミングが来ず、元本の損益増減が反映されない。この差異は、元本の時価が大きく変動した場合に影響が出る可能性がある。
LPトークンの種類と自己発行・他者発行
【結論】LPトークンには暗号資産に該当する規格(UNI-V2等)とNFT規格に準拠したもの(UNI-V3等)が存在する。また、自分で流動性供給して取得する「自己発行」と他者から購入する「他者発行」で処理が異なる。いずれの場合もLPトークンの時価は基本的に取得できない(所得税法第36条第1項)。
暗号資産型LPトークン vs NFT型LPトークン
暗号資産型LPトークン(例:Uniswap V2のUNI-V2)は、同一プール内であれば同種のトークンとして扱われ、総平均法・移動平均法の対象となりうる。
NFT型LPトークン(例:Uniswap V3のポジションNFT)は、流動性供給ごとに異なるポジション(価格レンジ)が設定されるため、1つ1つが固有の内容を持つ。暗号資産以上に時価の取得が困難である。
ただし、LPトークンはNFT規格を使っているだけのトークンであり、厳密にいえばNFTとは言い難いものも含まれる。債権トークンやLPトークンについては実質的な部分も考慮して、暗号資産の貸付・借入処理と同様に扱う実務対応が取られている。
他者発行LPトークンの処理
他者が発行したLPトークンを購入して流動性供給を解除する場合は、自身で暗号資産を預け入れていないため、通常の売買処理と同じ扱いとなる。インパーマネントロスの処理も発生しない。
LPトークンの時価は基本的に取得できないため、購入時は支払った暗号資産の時価を、売却時は受け取った暗号資産の時価を基準に計算する。
ファーミング(LPステーキング)の課税
【結論】LPトークンのステーキング(ファーミング)の開始・終了は課税イベントではなく、損益計算は不要である。ファーミング報酬を取得した時点の時価が所得金額となる(所得税法第36条、国税庁FAQ 1-7)。
流動性提供で取得したLPトークンは、さらにステーキングして報酬を得ることができる。この場合の税務処理は以下のとおりである。
LPステーキングの開始・終了: 課税イベントではない。損益計算不要。
ファーミング報酬の取得: 報酬を取得した時点の時価が所得金額となる。
計算例として、4 Cake-LPをステーキングし、5CAKE(時価1CAKE=800円)をファーミング報酬として取得した場合:
所得金額:
5CAKE × 800円 − 0円 = 4,000円
何かを譲渡して対価を得ているわけではないため、譲渡原価は0円である。収入金額がそのまま所得金額として計上される(所得税法第36条)。なお、プロジェクトによっては、LPトークン作成だけで自動的にファーミング報酬が得られるタイプのものもある。
実務上の注意点
【結論】流動性提供の損益計算は、取引履歴の欠損・LPトークンの時価取得不能・処理方針の未確定が重なり、暗号資産の中で最も計算が困難な領域である。損益計算ソフトなしでの計算は事実上不可能であり、税理士への相談が不可欠である。
取引履歴の問題
流動性提供の実務では、以下のようなトラブルが頻発する。
- 流動性供給時にはLPトークンの付与履歴があるが、解除時にLPトークンを返却する履歴が出てこない
- 流動性供給・解除の双方でLPトークンが履歴に表示されない
- 元本と利息が別のトランザクションで返却される
- すべての暗号資産を返却してもらったにもかかわらず、LPトークンの返却枚数が付与枚数に比べ少なく、少量がウォレットに残り続ける
これらの問題により、預入・貸付を前提とした処理を行いたい場合でも、売買処理とせざるを得ないケースが多い。
LPトークンの時価と期末評価
LPトークンは流動性供給ごとに内容が異なり、市場での継続的な価格公表がないケースが大半である。そのため、法人の期末時価評価においても、LPトークンではなく預け入れた暗号資産の時価で評価するのが実務上の対応となる(法人税法第61条第2項)。
LPトークンの法的性質
LPトークンは「単なる預かり証」と評価されることがあるが、これには慎重な検討が必要である。LPトークンは割合的持分を表章するにすぎないものの、他者に譲渡可能であり、ファーミングに利用して報酬を稼得することも可能である。資金決済法上の暗号資産や金融商品取引法上の集団投資スキーム持分に該当するケースも考えられるため、単なる預かり証と断定する評価は適切ではない。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 流動性提供をしただけで税金はかかりますか?
「かかる」と「かからない」の2つの考え方がある。国税庁の公式見解は現時点で示されていない。課税イベントとする場合は預入時の時価と取得原価の差額が課税対象となり、課税イベントとしない場合は解除時にまとめて課税される。いずれの場合も最終的な損益合計額は一致する。
Q2. インパーマネントロスは税金の計算に影響しますか?
影響する。インパーマネントロスは流動性供給解除時に払い戻される暗号資産の数量に反映される。解除時の税務処理にその結果が含まれるため、インパーマネントロスの存在を特別に意識して別途損益計算を行う必要はない。
Q3. LPトークンを他人から購入して解除した場合はどう処理しますか?
通常の売買処理と同じである。他者発行のLPトークンを購入した場合、自身で暗号資産を預け入れていないため、LPトークンの購入と解除はそれぞれ暗号資産の売買として処理する(所得税法第36条第1項)。インパーマネントロスの処理も発生しない。
Q4. LPトークンをステーキング(ファーミング)した場合の課税は?
ステーキングの開始・終了は課税イベントではない。損益計算は不要である。ファーミング報酬を受け取った場合のみ、受取時の時価が所得金額となる(国税庁FAQ 1-7、所得税法第36条)。譲渡原価は0円である。
Q5. 流動性提供の損益計算は自分でできますか?
不可能ではないが困難。4つの会計処理パターンの選択、LPトークンの時価取得困難、取引履歴の欠損、複数チェーンのデータ解析が重なるため、DeFi対応の損益計算ソフトの利用が必須である。
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関係法令
- 所得税法第36条第1項(収入金額の定義)
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第37条第1項(必要経費)
- 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価)
- 法人税法施行令第118条の7、第118条の8(時価評価の対象・活発な市場の判定)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」1-7(令和7年12月最終改訂)
