債権トークンとは、DeFiプロトコルに暗号資産(仮想通貨)を預け入れた際に対価として発行されるトークンである。代表例としてLidoのstETH、CompoundのcETH・cDAI、ether.fiのeETHなどがある。流動性ステーキングやレンディングで取得するトークンが典型であり、預け入れた暗号資産に対する「債権」を表章する。
【結論】債権トークンの取得・保有・売却により利益が生じた場合、原則として雑所得として確定申告が必要である。ただし、債権トークンの税務処理には複数の解釈(パターン)が存在し、採用するパターンによって各年度の計上損益が変わる。国税庁の明確な公式見解はなく、処理方針は税理士と相談の上で決定する必要がある(所得税法第36条第1項)。
この記事でわかること
- 債権トークンとは何か、LPトークンとの違い
- 取得時・保有時・売却時の4つの処理パターンと損益の違い
- 具体的な計算例(パターンA〜D)
- NFT型債権トークンや二重債権構造の取扱い
- 実務上の注意点と取引履歴の問題
債権トークンの基本的な課税関係
【結論】債権トークンは税法上の特別規定がないため、暗号資産の一般的な課税ルールが適用される。個人は雑所得(所得税法第35条)、法人は益金・損金(法人税法第22条)として処理する。課税タイミングは「経済的利益が生じた時点」であり、取得・引出・売却の各局面で損益が発生しうる(所得税法第36条第1項)。
債権トークンの概念は、流動性供給(LP)とほぼ同じである。dappsに暗号資産を供給し、対価としてトークンを受け取る構造はLPトークンと変わらない。ブロックチェーンのコントラクト上でも、流動性供給と債権トークンの取引を明確に区別することはできない。
そのため、課税処理も流動性供給と同様の4パターンが実務上採用されている。
4つの処理パターン
| パターン | 処理方法 | 概要 |
|---|---|---|
| A | 売買処理 | 債権トークンを預けたトークンで「購入した」とみなす |
| B | 貸付(時価)+借入(時価) | 預入=暗号資産の貸付、債権トークン取得=借入として処理(Cryptorch採用) |
| C | 貸付(取得原価)+借入(時価) | パターンBの貸付側を取得原価で処理 |
| D | 預入処理 | 預入・引出時に仕訳を発生させない |
パターンA・B・Cは最終的な損益が一致する。パターンDのみ、預入から回収までの暗号資産の時価変動が損益に反映されないため、結果が異なる。
計算例|パターン別の損益比較
【結論】同じ取引でも、パターンA・B・Cでは29万円の利益、パターンDでは4万円の利益となる。差額の25万円は担保として預けたETHの時価変動分であり、パターンDではこの部分が計上されない(所得税法第36条第1項)。
前提条件
- ETH 1枚を取得原価15万円で保有
- DeFiプロトコルに1 ETHを預け入れ、債権トークンを取得
- 一定期間後、債権トークンを引き渡し、ETH 1.1枚(元本1枚+利息0.1枚)を回収
- 回収時のETH時価:1枚あたり40万円
パターンA・B・C(最終損益一致)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 回収したETHの時価 | 44万円(1.1 ETH × 40万円) |
| 預けたETHの取得原価 | 15万円 |
| 利益 | 29万円 |
内訳は以下のとおりである。
- ETHの時価変動分:25万円(回収時時価40万円 − 取得原価15万円)
- 利息分:4万円(0.1 ETH × 40万円)
パターンD(預入処理)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 利息として受け取ったETHの時価 | 4万円(0.1 ETH × 40万円) |
| 利益 | 4万円 |
パターンDでは、担保の暗号資産を「預入」として処理するため、預入から回収までの時価変動は損益計算に影響を及ぼさない。計上されるのは利息として受け取った暗号資産の時価分のみである。この特性は流動性供給のパターンDと同一である。
自己発行と他者発行の違い
【結論】自己が預け入れて取得した債権トークン(自己発行)と、市場で購入した債権トークン(他者発行)では、取得時の処理が異なる。他者発行の場合は購入時に支払った暗号資産等の時価が取得価額となる(所得税法第48条の2)。
自己発行(自分で預けて取得)
DeFiプロトコルに暗号資産を預け入れ、直接債権トークンを取得するケースである。前述の4パターンの処理が適用される。stETHをLidoで取得する場合や、cETHをCompoundで取得する場合がこれに当たる。
他者発行(市場で購入)
DEXや取引所で他者が保有する債権トークンを購入するケースである。この場合は通常の暗号資産の売買処理と同様に、購入時に支払った暗号資産等の時価が債権トークンの取得価額となる。
他者発行の債権トークンを保有し、その後プロトコルに引き渡して担保を回収した場合は、回収した暗号資産の時価と債権トークンの取得価額の差額が損益となる。
債権トークンの時価の問題
【結論】債権トークン自体の時価が預け入れた暗号資産の時価と異なるケースがあり、どちらの時価で処理すべきかは実務上の論点となっている。例えばcETH自体に時価が存在し、それがETHの時価と異なる場合、預け入れたETHの時価をcETHの時価とするか、cETH独自の時価で処理するかの判断が必要である。
この問題は、パターンAの売買処理を採用した場合に顕在化する。預け入れたETHの時価とcETHの市場価格が乖離していれば、取得時点で損益が発生することになる。
パターンB〜Dでは、債権トークンの時価が取れない場合は借入暗号資産を0円として処理する(仕訳が発生しない)方法が取られることが多い。
NFT型債権トークンの取扱い
【結論】債権トークンがNFTの形式で発行される場合でも、基本的な処理は暗号資産型と同じ4パターンが適用される。ただしNFTは法人税の期末時価評価の対象外であり、NFTの時価は暗号資産以上に把握が困難であるため、実務上は損益が発生しない処理となることが多い。
NFTを担保にして債権トークン的なNFTを取得するdapps(Parallel Network、NFTFi等)も存在する。この場合の流れは以下のとおりである。
- NFTを担保に預け入れ、債権トークン(NFT)を取得する
- 債権トークンを保有していると、概ねその価値の半分ほどのETHを借りることができる
- 借りたETHは利子付きで返済する。返済しなければ債権トークンとNFTは交換不可
- 債権トークンを返却してNFTが返ってくる
NFT同士の交換となるパターンAの場合、時価の把握が困難であるため、担保としたNFTの取得原価をもって計算することになる。パターンB〜Dでも、NFTの貸付時の時価が不明であるため、実務上は損益が発生しない処理が主流である。
借りた暗号資産の取得価額問題
【結論】債権トークンを保有して暗号資産を借り入れた場合、借りた暗号資産の取得価額を0円とするか借入時の時価とするかで利益額が大幅に変わる。この点について国税庁の公式見解はなく、実務上の重要な論点である。
例えば、5 ETHが入っているウォレットに他者から借りた10 ETHを入金した後、3 ETHを使って他の暗号資産を購入した場合、自分のETHで買ったのか借りたETHで買ったのかの判別は困難である。
取得価額を0円と考えれば、購入した暗号資産の時価が全額利益として計上される。借りた時点の時価を用いれば、取得原価との差額のみが利益となる。この違いは利益額に大きく影響する。
暗号資産の消費貸借に関する税務処理の参考として、国税不服審判所裁決(令和2年12月4日、裁決事例集未登載)がある。
実務上の注意点
【結論】債権トークンの損益計算で最も問題となるのは、取引履歴の欠損と不一致である。預入時に債権トークンが付与されても回収時に返却履歴が出ない、元本と利息が別トランザクションで返却されるなど、履歴の不完全さが計算を困難にする。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
実務上頻発する問題は以下のとおりである。
- 暗号資産預入時に債権トークンが付与されるが、回収時に債権トークンの返却履歴が出ない
- 債権トークンと引き換えに利息分の暗号資産のみが返却され、別のトランザクションで元本が返ってくる
- すべての暗号資産を返却してもらったにもかかわらず、債権トークンの返却枚数が付与枚数より少なく、少量がウォレットに残り続ける
- 預入・回収双方で債権トークンが履歴に表示されないケースもある
これらの履歴の欠損や不一致は、損益計算の精度を下げる原因となる。計算処理そのものに影響を与えないケースもあるが、トークン数量の調整時に煩雑さが増す。
なお、債権トークンのNFTの貸付・借入処理については、暗号資産の貸付処理にならって処理されているが、課税当局の判断次第では変更もあり得る。
よくある質問(FAQ)
Q1. stETHを取得した時点で課税されますか?
採用するパターンによる。パターンA(売買処理)を採用した場合、ETHとstETHの時価が異なれば取得時点で損益が発生する。パターンD(預入処理)を採用した場合、取得時点では課税されない(所得税法第36条第1項)。
Q2. 債権トークンの処理パターンはどれを選べばよいですか?
税理士と相談の上で決定する必要がある。パターンA・B・Cは最終損益が一致するため、どれを選んでも結果は変わらない。パターンDのみ時価変動分が反映されない点が異なる。CryptorchではパターンB(貸付・借入処理)を採用している。
Q3. 債権トークンを売却した場合の課税はどうなりますか?
売却時の時価と取得価額の差額が所得となる。自己発行の債権トークンであればパターンに応じた取得価額、他者発行であれば購入時の支払額が取得価額となり、売却時の時価との差額が雑所得として課税される(所得税法第36条第1項、第35条)。
Q4. 法人が債権トークンを保有した場合、期末時価評価の対象になりますか?
債権トークンが暗号資産であり、活発な市場が存在する場合は対象となりうる。ただし、貸付けした暗号資産は自社保有から外れるため期末時価評価の対象外である(国税庁FAQ 3-1-7)。借入れした暗号資産は自社保有として時価評価対象となる(国税庁FAQ 3-1-8)。NFT型の債権トークンは期末時価評価の対象外である。
Q5. 債権トークンの税務処理について国税庁の公式見解はありますか?
ない。債権トークンや暗号資産の貸借に係る税務上の取扱いは法的な議論がいまだ成熟しておらず、国税庁の明確な公式見解も公表されていない。処理方針は税理士に相談の上で決定する必要がある。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第36条第1項(収入金額の収入すべき時期)
- 所得税法第48条の2(暗号資産の譲渡原価等)
- 法人税法第22条(益金及び損金)
- 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価)
- 法人税法施行令第118条の7、第118条の8(暗号資産の期末時価評価等)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」3-1-7(貸付けした暗号資産)、3-1-8(借入れした暗号資産)
- 国税不服審判所裁決(令和2年12月4日、裁決事例集未登載)
