法人の暗号資産税務ガイド|期末時価評価と4分類

結論

法人の暗号資産は原則として期末時価評価の対象であり、売却していなくても含み益に法人税が課される。ただし4つの分類により時価評価の対象・対象外が分かれる。

  • 理由① 活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)は期末に時価で評価し、帳簿価額との差額を益金または損金に算入する。個人にはない法人特有の制度であり、含み益が大きい暗号資産を保有するだけで納税義務が生じる点が法人保有の最大のリスク。
  • 理由② 令和6年度改正により「特定譲渡制限付暗号資産」等の分類が新設され、自社発行トークンや一定の譲渡制限がかかった暗号資産は時価評価の対象外となった。従来は自社発行トークンにも含み益課税が生じていたが、この改正で発行体企業の負担が軽減された。
  • 条件 時価評価の対象外となる4分類(特定譲渡制限付暗号資産・特定自己発行暗号資産等)に該当するかの判定は、保有目的・譲渡制限の内容・発行形態により個別に行う。該当すると思い込んで時価評価を行わず、税務調査で否認されるケースに注意が必要。

法人税法第61条第2項・第3項

この記事でわかること

  • 法人が保有する暗号資産の4分類と、それぞれの期末時価評価の要否
  • 「活発な市場」の判定に必要な3要件
  • 期末時価評価の具体的な計算方法と洗替処理
  • 法人の暗号資産の譲渡原価の計算方法(移動平均法が法定)
  • 暗号資産FXの未決済ポジションの期末処理
目次

法人税の基本|個人との違い

【結論】法人税は個人の所得税と異なり、所得の種類(雑所得・譲渡所得等)を区分しない。法人の暗号資産取引で生じた損益は、すべて法人の各事業年度の所得に合算される(法人税法第4条、第5条)。

個人が暗号資産で利益を得た場合、原則として雑所得に区分され、他の所得と損益通算ができない。一方、法人では暗号資産の取引損益は法人の全体の所得に含まれるため、他の事業損益と通算される。

法人の暗号資産税務で個人と異なる主なポイントは次の3点である。

比較項目 個人 法人
所得区分 原則として雑所得(損益通算不可) 区分なし(全所得と通算)
評価方法の法定 総平均法 移動平均法
期末時価評価 なし あり(市場暗号資産は時価評価必須)

暗号資産の4分類と期末時価評価の要否

【結論】法人が保有する暗号資産は4つに分類され、期末時価評価が必要なのは原則として「上記以外の暗号資産(市場暗号資産で特定譲渡制限付・特定自己発行に該当しないもの)」のみである(法人税法第61条第2項、法人税法施行令第118条の7)。

法人税法は、暗号資産を以下の4区分に分類し、区分ごとに期末の取扱いを定めている(国税庁FAQ 3-1-2、3-1-3)。

区分 内容 期末時価評価
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行でないもの) 原則不要(原価法が法定。届出で時価法選択可)
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行のもの) 不要
特定自己発行暗号資産 不要
上記以外の暗号資産 必要(活発な市場がある場合)

各区分の定義

特定譲渡制限付暗号資産(イ・ロ):JVCEA(日本暗号資産取引業協会)の規則に基づく移転制限が付され、暗号資産交換業者がJVCEAを通じて特定条件の公表のための一定の手続を行っている暗号資産である。令和6年度改正で新設された区分であり、第三者が保有する暗号資産でも移転制限+公表手続により時価評価の対象外にできる(法人税法施行令第118条の7第2項)。

特定自己発行暗号資産(ハ):自ら発行し、発行時から継続して保有し、かつ発行時から継続して技術的措置による移転制限(マルチシグ等)または信託による管理が行われている暗号資産である(法人税法施行令第118条の7、法人税法施行規則第26条の10)。

上記以外の暗号資産(ニ):イ・ロ・ハのいずれにも該当しない暗号資産。活発な市場が存在する場合は期末時価評価の対象となる。

時価評価の対象外となるケースまとめ

活発な市場がある暗号資産であっても、以下に該当する場合は時価評価の対象外である。

  • 特定自己発行暗号資産
  • 特定譲渡制限付暗号資産で自己発行のもの
  • 特定譲渡制限付暗号資産(自己発行を除く)で原価法を選定しているもの

活発な市場の判定|3要件

【結論】暗号資産に「活発な市場」が存在するかは3つの要件で判定する。3要件すべてを満たす場合に、期末時価評価の対象となる(法人税法第61条第2項、法人税法施行令第118条の7)。

国税庁FAQ 3-1-4に基づき、以下の3要件すべてに該当する場合、その暗号資産には「活発な市場が存在する」と判定される。

要件 内容
① 継続的な価格公表 継続的に売買価格等が公表され、かつ、その価格等が売買の価格または交換比率の決定に重要な影響を与えている
② 十分な取引量・頻度 ①の公表のために十分な数量・頻度で取引が行われている
③ 自社以外の関与 (イ) 売買価格等の公表がその法人以外の者によりされている、又は (ロ) 取引が主としてその法人の自己計算でない

活発でない市場の判断指標

次のいずれかに該当する場合は、活発な市場が存在しないと判定されうる。

  • 暗号資産交換業者ごとに売買価格等が著しく異なる場合
  • 売手と買手の希望価格差が著しく大きい場合

要件③の趣旨は、自ら時価を創出・操縦することによる利益調整の防止である。自己発行暗号資産であっても、要件③を満たさなければ活発な市場があるとは認められない。

期末時価評価の計算方法

【結論】期末時価評価は、暗号資産の種類ごとに「事業年度終了日の最終売買価格(または最終交換比率に基づく価格)× 数量」で時価評価金額を算出し、帳簿価額との差額を評価損益として益金または損金に算入する(法人税法第61条第2項・第3項、法人税法施行令第118条の7第1項・第118条の8第1項)。

時価の算定方法(2パターン)

パターン 算定方法
❶ 売買価格がある場合 価格等公表者が公表した事業年度終了日の最終売買価格 × 数量
❷ 交換比率のみの場合 価格等公表者が公表した事業年度終了日の最終交換比率 × 他の市場暗号資産の❶の価格 × 数量

事業年度終了日に最終売買価格または最終交換比率がない場合は、同日前で最も近い日のものを使用する。

価格等公表者とは、市場暗号資産の売買価格等を継続的に公表し、かつ、その公表する売買価格等がその市場暗号資産の売買の価格または交換比率の決定に重要な影響を与えている者である。

計算例(BTC・ETH)

共著事例29に基づき、次の条件で期末時価評価を行う。

前提条件:

  • 期末保有:BTC 10枚(帳簿価額:1BTC=200万円)、ETH 5枚(帳簿価額:1ETH=50万円)
  • 期末時価:1BTC=440万円、1ETH=28万円

BTCの期末時価評価損益:

項目 金額
① 時価評価金額(440万円 × 10BTC) 4,400万円
② 帳簿価額(200万円 × 10BTC) 2,000万円
評価益(① − ②) 2,400万円

ETHの期末時価評価損益:

項目 金額
① 時価評価金額(28万円 × 5ETH) 140万円
② 帳簿価額(50万円 × 5ETH) 250万円
評価損(① − ②) △110万円

BTCの評価益2,400万円を益金に、ETHの評価損110万円を損金に算入する。

洗替処理の方法

【結論】期末時価評価で計上した評価損益は、翌事業年度の期首に逆仕訳(洗替処理)を行い、帳簿価額を時価評価前の金額に戻す。翌期に譲渡した場合の譲渡損益計算は、期末時価評価前の帳簿価額をベースに行う(法人税法第61条第11項、法人税法施行令第118条の9第1項・第4項)。

洗替処理とは、当期末に計上した評価損益と同額を翌期首に反対仕訳することである。

当期末の処理 翌期首の洗替処理
評価を益金算入 同額を損金算入
評価を損金算入 同額を益金算入

上記計算例のBTCの場合、当期末に評価益2,400万円を益金算入し、翌期首に同額2,400万円を損金算入する。翌期首の帳簿価額は当期末の帳簿価額(200万円 × 10BTC = 2,000万円)に戻る。

翌期中にBTCを1枚500万円で売却した場合の譲渡損益は、期末時価評価前の帳簿価額200万円をベースに計算する。

500万円 − 200万円 = 300万円

上記より、300万円の譲渡益となる。

譲渡原価の計算|移動平均法が法定

【結論】法人の暗号資産の譲渡原価は、移動平均法により計算するのが法定評価方法である。個人の法定が総平均法である点と異なる。届出により総平均法に変更することもできる(法人税法施行令第118条の6)。

法人の暗号資産の譲渡原価は、次の計算式で求める。

譲渡原価 = 1単位当たりの帳簿価額 × 譲渡数量

1単位当たりの帳簿価額は、暗号資産の4分類(イ・ロ・ハ・ニ)の区分ごと、かつ種類ごとに評価方法を選定する。届出書を提出しなければ移動平均法が適用される。

譲渡損益の計上時期は約定日基準であり、売却等に係る契約をした日の属する事業年度に計上する(国税庁FAQ 3-1-1、法人税法第61条)。

暗号資産FXの期末処理

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「法人の暗号資産税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。

【結論】法人が期末時点で暗号資産FX(暗号資産信用取引)の未決済ポジションを保有している場合、みなし決済損益額を益金または損金に算入する。翌事業年度に洗替処理を行う(法人税法第61条の5、法人税法施行令第118条の12)。

暗号資産FXの未決済ポジションの期末評価は、暗号資産の現物の期末時価評価とは別の規定に基づく。含み損益として表示される暗号資産の数量に期末時価を乗じた金額を、みなし決済損益として計上する。

実務上の注意点として、未決済ポジションの期末時点の含み損益がわかる資料を取引所から取得できるケースは稀である。そのため、期末時点での未決済ポジションの含み損益がわかる取引画面のスクリーンショット等を事前に取得しておく必要がある。

また、暗号資産FX用と現物取引用の暗号資産の区別が取引履歴からわからないケースも多く、証拠金を「差入証拠金」に振り替えると実際の暗号資産保有数量の把握が煩雑となるため、振替を行わずに処理する方法がとられることもある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 法人が暗号資産を保有しているだけで税金がかかる?

かかる場合がある。活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)であって、特定自己発行・特定譲渡制限付に該当しないものは、期末に時価評価を行い、含み損益を益金または損金に算入する(法人税法第61条第2項・第3項)。売却しなくても評価益が発生すれば課税対象となる。

Q2. 個人で保有している暗号資産を法人に移す場合の課税関係は?

個人側で譲渡所得(または雑所得)が発生する。個人から法人への移転は時価での売却として扱われ、個人側で移転時の時価と取得価額の差額が課税対象となる(所得税法第36条第1項)。法人側は時価で取得したものとして帳簿に計上する。

Q3. ステーキングでロックアップ中の暗号資産も時価評価の対象か?

対象である。ロックアップ中でもステーキング報酬を得られ、将来的な価格変動リスクを法人が負うため、「自己の計算において有する」暗号資産に該当する。ステーキングのロックアップは特定譲渡制限付暗号資産の「移転制限」とは異なる(国税庁FAQ 3-1-6)。

Q4. DEXで取引される暗号資産も期末時価評価の対象になる?

なりうる。DEXはAMM(自動マーケットメイカー)により交換比率が公表され、随時交換取引が可能であるため、市場の範囲に含まれる。DEXの交換比率が他の取引所と著しく異ならず、3要件を満たす場合は期末時価評価の対象となる(国税庁FAQ 3-1-5)。

Q5. 特定譲渡制限付暗号資産の手続はいつまでに行えばよい?

事業年度末までに手続を行っていれば足りる。JVCEAのウェブサイトでの実際の公表が翌事業年度になる場合でも、暗号資産交換業者への通知等の手続を事業年度末までに完了していれば、その事業年度から特定譲渡制限付暗号資産に該当する(国税庁FAQ 3-1-11)。

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関係法令

  • 法人税法第4条(納税義務者)
  • 法人税法第5条(内国法人の課税所得の範囲)
  • 法人税法第61条第2項・第3項・第11項(暗号資産の期末時価評価・洗替処理)
  • 法人税法第61条の5(暗号資産信用取引のみなし決済)
  • 法人税法第74条(確定申告)
  • 法人税法施行令第118条の6(譲渡原価)
  • 法人税法施行令第118条の7(時価評価の対象・4分類)
  • 法人税法施行令第118条の8(時価評価金額の計算)
  • 法人税法施行令第118条の9(洗替処理)
  • 法人税法施行令第118条の12(みなし決済損益)
  • 法人税法施行規則第26条の10(特定自己発行暗号資産の要件)
  • 暗号資産交換業者に関する内閣府令第23条(特定譲渡制限付暗号資産の手続)
  • 所得税法第36条第1項(収入金額)
  • 国税庁FAQ(暗号資産関係)3-1-1、3-1-2、3-1-3、3-1-4、3-1-5、3-1-6、3-1-11
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